435-443 早春のヤマメ 1-9完

フライへの挑戦<435>
早春のヤマメ


 3月。渓流の女王ヤマメの解禁を迎える。

 玄界灘の島めぐりの釣りを、そろそろ切り上げて、渓流の釣りに戻ることにしよう。早春のヤマメ釣り。なんだかんだいっても、ヤマメ釣りは、日本のフライフィッシングの大きな幹には違いない。

 その中でも、私は、早春の釣りが好きだ。水量の安定した里川で、思う存分フライラインを投げ、フライラインの軌跡を楽しむ。広くゆったりした流れで羽がわりする羽虫の群舞を眺めるのもいい。セキレイが岩に止まり、流れ下る羽虫をついばみ、岩の横では、ヤマメが静かに羽虫を食べ波紋を残す。

 白いウイングポストの16番パラシュートフライで始めよう。流れ下るカゲロウの中にそっと、そいつを紛れ込ませる。使い慣れたロッドは、何回か振れば、昨年の今のようにすぐ働いてくれる。フライリールは角の塗装がはげてしまったほうがいい音を弾かせてくれる。

 流れのかたわらに立てば、また、今年も戻ってきたかと思い、ホッとする。柔らかなフライラインは流れになじみ、その先のリーダーもしなやかだ。

 パラシュートフライは安定した姿勢で、期待を一身に集め、誇らしげだ。もう、あと1メートルも流れれば、岩の横にいる大ヤマメがとがった鼻を持ち上げてくる。

 (寺島亮嗣)


掲載日=2004年2月17日(夕刊)


フライへの挑戦<436>
早春のヤマメ(2)

写真=愛用のフライリール

 フライロッドはほとんどカーボングラファイトのブランクが使われ、ほかの素材より性能は高いが、やはり長年使い続けているとへたってくる。10年も使うと弱くなって、買い替えの時期だ。現代のフライロッドは半ば消耗品である。ヤマメ釣りのロッドは、実用的には8フィート前後のものであればそれ1本でどの釣り場もやれてしまう。あれこれそろえても、ついついお気に入りに手が伸びてしまうのはどの釣りでも似たようなものだろう。

 私は、8・3フィートの3番を7年間使っている。米国製で日本のヤマメ用にデザインされたものだ。米国のマス用の3番よりもかなり柔らかく作られている。ほかに日本製の9フィート3番、7・6フィート3番も車に乗せていくがほとんど出番がなくなってしまった。しかし、お気に入りも7年使っているので買い替えの時期か。

 ロッドに比べると、フライリールはずっと使える。ヤマメやマス用のフライリールは構造が実に単純で、スピニングリールやベイトキャスティングリールと比較して故障が少ない。故障する部品が少ないのである。

 私は、英国製のそんなに高価でないのを使っているが、岩に落としてスプールが曲がったときは、河原の砂で磨いてその場をしのぎ、また、ペンチで戻した。ほとんどがそんな傷もちだが、10年以上使い続けている。傷を修理した跡がまた味があってよい。愛着がわく。

 (寺島亮嗣)


掲載日=2004年2月24日(夕刊)


フライへの挑戦<437>
早春のヤマメ(3)

写真=3月下旬、息子が釣った尺上(2000年の釣行)

 水面に浮くフライをドライフライといい、その釣りをドライフライフィッシングという。水面を流れ下るドライフライにヤマメが飛びつく。これは、流下してくる水生昆虫のライフステージ(幼虫から亜成虫へ、サナギから成虫へなど)の最も劇的な瞬間が水面上で行われるという特質をとらえた釣りである。

 日本では古くから「テンカラ」という釣法で行われてきたが、西洋で進化したのがドライフライフィッシングである。英国では、ドライフライを使っての釣りだけがフライフィッシングとして認められるという時代が続いた。

 その後水中での釣り(ニンフフィッシング)が認められることになった。それほど、水面上での釣りにこだわった歴史があるのだが、九州でのヤマメ釣りは、3月の解禁日から、ドライフライフィッシングのピークを迎える。渓流の下流の里川では、もう2月からヤマメは盛んに水面を流れる昆虫を追い、鼻を突き出して捕食し続ける。水温が上昇してくる午前10時ぐらいから午後3時ぐらいまでがいい。朝早くから川に入ってもあまりいい結果は出ない。ゆっくり朝メシを食ってからの方が集中できる。

 ドライフライをくわえ反転した魚に一発でビシッと合わせをくれるのは、何事にも変え難い快感である。 (寺島亮嗣)



掲載日=2004年3月2日(夕刊)


フライへの挑戦<438>
早春のヤマメ(4)



 「ザ・フライフィッシング」(森と渓流の会編)昭和55年発行を、久しぶりにめくってみた。この本は、当時の釣りジャーナリズムに対してあきたらなさを感じていた書き手たちが集まって出版された。

 後に、発行され続けることになった「フライフィッシングジャーナル」や、「フライの雑誌」の原点ともいえる。

 この本の中に、アンケート41人によるベスト・ドライ・フライというページがあって、当時流行したフライ(イラストはその一部)がよく分かる。41本のうち7本がパラシュートフライ。あとは、アダムス、ロイヤルウルフ、マドラーミノーなどで、日本で最も読まれたであろうといわれる「ウェスタン・トラウトフライタイイング・マニュアル」(ジャック・デニス著)の影響が大きい。どれも素朴だ。

 フライにも、材料(マテリアル)の変化とともに流行がある。その後、C・D・Cと呼ばれるカモの尻毛がフライに使われるようになるとフライは、より浮きやすく作りやすくなった。さらにファブリックの転用が加わるようになって、水生昆虫のライフサイクルのすべてが演出できるようになった。昨今の釣り雑誌を読むと複雑になったフライのオンパレードである。それを全部作ろうとなると材料だけで部屋いっぱいになるだろう。 (寺島亮嗣)

掲載日=2004年3月9日(夕刊)


フライへの挑戦<439>
早春のヤマメ(5)



 早春の里川では、コカゲロウという小型のカゲロウが大量に羽化する。羽化は水面で行われ、岩や水草の影で生活していた幼虫が水面まで泳ぎ、水面で脱皮する。脱皮すると、しばらくは羽を帆のように垂直に立てて水面を流れ下る。幼虫から脱皮し、亜成虫に変わる、このときがヤマメにとってはプライムタイムなのである。

 イラストは、1971年、ダグ・スイッシャー、カール・リチャーズ(米国)によって発表された脱皮しようとしているコカゲロウの幼虫を模した「フローティング・ニンフ」というパターンである。このフライはいたってシンプル。無駄なところがない。幼虫の足、しっぽ、背中の殻を破ってふくらもうとしている羽、胴体、それだけ。それだけなのに、ほかのパターンより使いがってがよく安定して働く。巻きやすく、使いやすい。ディテールはしっかり簡略され、誰が巻いてもそれなりに仕上がる。

 3月の第1週の土曜日、阿蘇・白川は氷点下となり、終日横なぐりの雪に襲われた。悪天候の中、ヤマメは、流れ下るコカゲロウを食い続けた。この日、一番魚を引きつけたのが、このフライだ。この単純なフライがなぜ、魚を引きつけるのか考えるのも春の釣りならではないだろうか。

掲載日=2004年3月16日(夕刊)


フライへの挑戦<440>
早春のヤマメ(6)


白川の中島橋下流
 阿蘇・白川(熊本県)が好調だ。放流事業は、地元の「トラウト・ネットワーク」というグループによって行われており、本年度で10年目の節目を迎えた。昨年6月に、放流された体長6センチほどの稚魚が22センチ平均に育っている。

 釣り場は、白川の久木野村と白川村の区間になる。放流は、たくさんのポイントに分散して行われているため、この区間全域に魚がいる。

22センチほどのヤマメ(白川)  昨年のシーズンは、河川工事のため、川が荒れていたし、そのほかの原因が重なり不調だったが、今年は昨年に比べ状態は安定しているようにみえる。さらに、ごみの投機が減ったことも良い材料だ。護岸に捨てられていたごみが確実に減った。これは、地元行政による啓発と住民の協力と理解、それに加えて釣り人による清掃活動によるものであろう。

 釣った魚の再放流がもっと定着すれば、もっと大型のヤマメが私たちを楽しませてくれるにちがいない。  (寺島亮嗣)

掲載日=2004年3月23日(夕刊)


フライへの挑戦<441>
早春のヤマメ(7)


C&R区間で平均的な魚体
 今シーズンから嘉瀬川本流(古湯地区漁業協同組合)・天河えんていよりダム直下までが再放流区間に設定された。現在は、須田地区にある発電所放水口から下流天河えんていまで流水量が安定していて、須田地区から上流の水量は乏しい。実際の釣り場は、発電所から下流になる。

 川幅は広く、障害物もないため存分にキャストできる。また、流れは変化に富み、瀬・渕と、好みに応じたポイントを選べる。魚影は濃く、偏光グラスでよく見ると数多くのヤマメが泳いでいるのが確認でき、一カ所にとどまっていても釣りになる。放流魚の型は15センチから30センチまでで、一番釣れるのは20センチ前後のサイズだ。

 ▽注意事項は次の通り。(1)年券4000円、日券1000円(2)魚かごの持ち込みは一切禁止(3)かえしのない(かえしをつぶした)針を使用(4)釣った魚は、直接触らないようにして再放流(5)ゴミは必ず持ち帰る。注意事項はかなり徹底していて米国のキャッチ・アンド・リリースとほとんど変わらない。

 入漁券は、古湯温泉内、中島商店・Yショップで購入できる。次回は、実釣を報告する。  (寺島亮嗣)

掲載日=2004年3月30日(夕刊)


フライへの挑戦<442>
早春のヤマメ(8)

 3月13日、嘉瀬川・古湯地区漁業協同組合・キャッチ・アンド・リリース区間に釣行。キャッチ・アンド・リリース区間設定にあたって、水生昆虫の生息状態や釣法の設定などについて、組合長から相談を受け、微力ながらお手伝いさせてもらっている。われわれ、福岡市とその近郊に住むフライフィッシャーにとって1時間で、本格的なキャッチ・アンド・リリース釣り場に行けることはたいへんうれしい。誰が行っても、魚がたくさんいるところで釣りができるのは、初心者にとっても、ベテランにとっても釣り場探しにあくせくしなくていい安心感がある。

古湯キャッチ・アンド・リリース区間  釣り場に入る前に、組合長・山口友雄氏を訪ねて、現況をうかがった。今後の成育状況をみて、追加放流の準備があること、支流の貝野川上流に発眼卵放流をしていることなど、今後の対策をうかがった。

 釣り場は、古湯温泉地区内である。多少の濁りが出ている。発電所放水口からの濁りだ。本年度中には、発電所からの放水はなくなり上流のせきから放水される予定だ。そうなると釣り場は大幅に長くなり水質も安定するだろう。

 午前中、釣り人は、ほとんどいなかったが、正午近くになると、10人ほど川に立つようになった。それと同時にカゲロウの羽化が始まり、それを食べるため、ヤマメが水面に浮き上がってきて、ライズの輪があちこちで広がった。
(寺島亮嗣)

掲載日=2004年4月7日(夕刊)


フライへの挑戦<443>
早春のヤマメ(9完)

 解禁日から何日も釣り人の流すフライを見て学習しているため、たくさんライズはあるものの、そうやすやすとフッキングしない。そうこうするうちに、何とかフッキングに持ち込むことがある。そうなると「やったあ」と自慢したくなる。キャッチ・アンド・リリース区間では、釣り人が多いため「やりましたね」と声が掛かることもしばしばで、これがまたいいところだ。釣り人間のトラブルはほとんどない。ただ、釣行3回のうち1回、餌釣りの釣り人がフラシを入れていたので、この釣り場の趣旨を説明し、お引き取り願った。餌釣りの釣り場は、ほかに確保されている。
 当日は1日、粘って7匹キャッチできた。サイズは20センチ前後といったところか。難しいといっても、まったく釣れないことはない。流下昆虫をよく調べて、根気強く対処すれば結果は出る。そういう意味では、マッチング・ザ・ハッチ好きのベテランでも満足できるだろう。
 釣り場の要所、要所に写真のような見やすい告知板が立ててあるので、それを見て、ルールを確かめていただきたい。
 漁協では、追加放流用の魚をかなりの量確保しているが、来年に向けて考えてみると、今泳いでいる魚たちが状況さえよければ立派な魚に育つのである。追加放流は最終的手段にしておいて、今いる魚を育てていく姿勢が大切だろう。
 =この項終わり
 (寺島亮嗣)

掲載日=2004年4月13日(夕刊)