―30周年の記念アルバムを豪華ゲストを迎えて制作した経緯は?
矢野:いつもソロで、自分の曲を歌っているでしょ。それをそのままレコードにしてもつまらないので、どなたか一緒に歌ってくれたら、楽しいんじゃないかしらと思って、友だちに声を掛けたの。結果的に、存在自体に意義があるアルバムになったかもしれないわね。
―濃い顔ぶれですが、人選の基準は?
矢野:お互いの音楽に対して敬意を持っていることと、共演した曲に対して愛があること。すべては愛が基本です。
―ジャケットも素晴らしい!
矢野:これはご自慢でねぇ(笑)。今はパソコンからダウンロードして、自分でCDをつくれちゃうじゃない。だから「これは絶対手元に置きたい」というものにしようと、現代美術の若手とコラボレートしてみました。格好いいですよ。
―デビューから30年。創作活動で常にこだわり続けていることは?
矢野:アルバムをつくっているときに「これが最後のレコード」という姿勢で臨むのは、いまだに変わってないかな。あとは、そのとき自分が一番聴きたい音楽をつくっているということかしら。
―オリジナルアルバムは26枚。暴力や性描写、ネガティブなイメージを感じさせる曲が一曲もないという一貫性がすごいです。
矢野:「文は人なり」と同じように「音は人なり」で、自分が普段、会話の中で言わない言葉や、耳に入れたくない言葉は当然、歌詞には書きません。
―でも、暴力的な言葉で他人を攻撃するような曲も売れていますよね。
矢野:アメリカのヒップホップとか、驚いちゃうよね。なぜそういうものが、出てすぐにミリオンになるのかと思っちゃう。でも私の歌は、そういう言葉を聞きたくない、耳に入れたくない、という人たちに届けばいいと思ってる。
―昨年末の宗像市のコンサートを聴きました。演奏中はもちろん、終了後も会場に幸福感が満ちてましたね。
矢野:それはうれしい。特にコンサートって、その場限りのものでしょう。だから、最後に会場に明かりがついたときに「来て良かった」とか「生きてて良かった」と、ほっとするような気持ちが残ればいいなぁと思ってやっているから。。
―歌詞の世界観がより伝わるように全歌詞集を発表することは考えませんか?
矢野:詩集?とんでもない。歌詞は一番苦手。昔、歌詞カードに関していつもレコード会社と戦っていたくらい。一番耐久性のない紙を使えとか、ジャケットの内側に歌詞を印刷して読めないようにするとか。それだけ歌詞を読まれるのが嫌だったの。歌詞は耳から聴くものであって、目からくる情報とは違うと思っているから。
―年末のコンサートで、学生にチケットを安く提供する「ヤングシート」というアイデアが新鮮でした。
矢野:くるりの岸田さんとライブの料金の話になって、彼が「自分たちが犠牲を強いてでも高くしたくない」と言ったの。偉いと思って、私でもやれることをやろうと思って始めたの。開演時間とかでも、なるべく聴きに来る人の都合に合わせてたいなぁと思っているんだけどね。
―鉄道好きとしても有名ですが、九州の電車を楽しむ機会は?
矢野:ほとんどなくて、5年くらい前、大分から福岡に移動する時に、ガンダムのような特急に乗ったくらいかな。ずっと運転席の後ろに張り付いて、じーっと見ながら、運転手気分を楽しみました(笑)。いつか(鉄道好きの)岸田さんと一緒に九州全線制覇したいわね。
(樹)
新譜「はじめてのやのあきこ」 デビュー30周年を記念してリリースした、ピアノ弾き語りによるセルフカバーミニアルバム。槙原敬之、小田和正、YUKI、忌野清志郎とそれぞれ、「自転車でおいで」、「中央線」、「ごはんができたよ」、「ひとつだけ」で共演。「そこのアイロンに告ぐ」では、新進気鋭のピアニスト・上原ひろみとの鍵盤対決が楽しめる。くるりの岸田繁との共作「PRESTO」の弾き語りや、井上陽水との書き下ろし新曲「架空の星座」を含む、全7曲を収録している。