「たった一つの命を捨てて」。壮絶な戦いの末にヒーローが得たものは何だったのか。平和、正義、それとも…? 人気アニメを題材に斬新なCG映像が乱舞する話題の映画「CASSHERN」。監督・紀里谷和明さん=写真左=と主演・伊勢谷友介さんをダブルGET! 信じるもののため孤高の戦いを続ける「キャシャーン」とは、監督そのものではなかったのか? そして「東鉄也」に伊勢谷さんが託した思いとは? これまであまり語られなかった戦争と平和の問題にも突っ込んでみた。特集で響けキャシャーン! 「バナ天」が聞かねば誰が聞く? (精)
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―数あるアニメの中で、なぜ「キャシャーン」の映画化を考えられたのでしょう?
紀里谷:ずっとひかれていたんです。アニメは5歳のときに見たんですが、敵のブライキングボスが、人間に対して「お前たちはわれわれロボットを奴隷にしてきた。だから今度はロボットがお前たちを奴隷にするのだ」という場面。「悪にもそれなりの理由がある」という設定が衝撃的でした。
―伊勢谷さんのキャシャーン体験は?
伊勢谷:僕は全然知らなかったんですよ。でもあえてアニメは見ない方が先入観を持たずに演技できると思ったし、監督も「見なくていいよ」と言ってくれたので、いまだに見ていません。ただネットでアニメのキャシャーンをちょっと見て「わー、こんな変な角の付いたヘルメットかぶせられたらたまんないな」って不安に思ってました(笑)。結果的にその場面はなかったのでホッとしましたね。
―戦争と平和の問題など、米中枢同時テロ以降の監督の世界観がにじんでいるように思いました。
紀里谷:僕は同時多発テロは、それまで世界で起こってきたことの「結果」ととらえているんです。「善」と定義されているものと「悪」と定義されているものの対立。その行為は絶対に許せないが、悪にも「理由」があるがゆえにテロは起こった。そこにキャシャーンと同じテーマがある。
―伊勢谷さん演じる、キャシャーンになる前の鉄也と父親役の寺尾聡さんの「お前は本当の戦争を知っているのか」という会話も重みがありました。
伊勢谷:僕は日本にいて、もちろん戦争は体験していない。ただ「東鉄也」という役をやるにあたって考えたのは、彼は僕らの世代の代表なんだということ。リアルな戦争がどういうものであるのか問いかける場面も映画の中にある。自分がもし鉄也と同じ環境に追い込まれたらどうするのか。実際、世界はそういう状況じゃないですか。この映画が今の世界の問題として考えるきっかけになってくれればという気持ちで演じていました。
紀里谷:鉄也が戦争に行くという場面は一見リアリティーがないようにみえるが、実際問題、もしかしたら5年後には起こり得ると考えている。ロボットも出てくるし、とっぴな場面も多いですが、テーマはすぐ隣にあること。そこを感じてほしい。
―さまざまな「愛」と「正義」の形が現れては、疑問符が突きつけられていきます。
紀里谷:湾岸戦争もそうだが、僕の中ではサラエボ問題が一番大きかった。衝撃的だったのは「民族浄化」の名の元に大量虐殺が行われたこと。教科書でしか知らなかったことが21世紀にならんとする時代に平然と行われた。「まだ人間はこんなことをやっているのか」と考え込みました。
―それでも映画では「希望」を語っています。
紀里谷:確かに人類の歴史は失敗の繰り返しだけど、それでも最後には成功するんじゃないのという思いを込めたつもりです。あまりにも問題が多くて、今の人たちは疲れている。「どうせ人間はそういうものだよ」と期待しないほうが楽だし、傷つきもしない。「でもそれでいいのかな」という僕なりの問いかけです。
―キャシャーンの背骨が浮き出たスーツにも驚きました。あれは伊勢谷さんの背中ですか?
伊勢谷:僕の背中はあんなにボコボコしてないですよ!(笑)
紀里谷:実は新造細胞の体がスーツを突き破って外に飛び出す設定もあったんですよ。でも尺(映画の長さ)の問題で描けなかったんです。
―スーツが血や泥で汚れていくにつれ、厳しくなっていく伊勢谷さんの表情もよかった。
紀里谷:うん、僕もそう思う。どんどんかっこよくなっていった。
伊勢谷:内心「ドロドロして気持ち悪いからやめて」とも思ってたんですけど。でも現実の撮影の進行も厳しくて…キャシャーンも僕も実際ボロボロだったんです。
―ヒーローの服は場面が変わるときれいになるのがアニメの鉄則ですが。
紀里谷:キャシャーンは「バットマン」みたいにお金持ちじゃなくて、一張羅で洗えなかったんでしょうね(笑)。
―全編がCG。演技者としては苦労されたと思いますが、完成作を見て感動されたのでは。
伊勢谷:一応、人間の相手役がいて演技的には問題はなかったですね。完成作は驚きの連続でした。とくに「あれっ!あんなに苦労したカット、これだけなの?」とか(笑)。編集も監督が兼ねてるんですけど…。
―監督は熊本県の出身。なにか思い出は?
紀里谷:友だちは多かったけど、学校とかあんまり好きじゃなかったですね。
伊勢谷:なにやって遊んでたんですか? 公園にたまってたりとか?
紀里谷:山行ったりとか自転車乗ったりとか、虫採ったりとかして…公園なんかないんだよ! 都会じゃないんだから(笑)。
■プロフィル
きりや・かずあき 1968年生まれ、熊本県出身。中学卒業と同時に単身渡米。87年からニューヨークに拠点を置き、ファッションフォトグラファーとして活躍。99年に東京に戻り、宇多田ヒカル、MISIAなどのCDジャケットや数々のファッション雑誌の写真を手がける。「traveling」「SAKURAドロップス」など宇多田のミュージックビデオも演出。独自の映像世界は高く評価されている。宇多田と02年結婚。宇多田は主題歌「誰かの願いが叶うころ」で映画に参加。
いせや・ゆうすけ 1976年生まれ、東京都出身。東京芸術大在学中にモデルとして活動を開始。98年、是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」で映画デビュー。以後、「金髪の草原」「ディスタンス」「害虫」「黄泉がえり」「赤い月」など話題作に出演。03年には監督、脚本、主演に挑戦した「カクト」を制作。映像作家としても注目されている。