法曹人口の拡大や質の高い法曹教育を目指し2004年4月に創設された法科大学院の第1回卒業生が、新司法試験、司法修習を経て今期、初めて法曹界にデビューした。福岡県弁護士会にも昨年12月に17人が登録し、弁護士としての道を歩み始めている。社会人や法学部以外の履修者に法曹への道を開いた法科大学院が、いよいよ真価を発揮するときが来た。
社会・経済の多様化で国民生活や経済活動のさまざまな場面で法曹需要が増大することが予想されている。知的財産にまつわる紛争では、弁護士や裁判官にも企業活動や技術開発への深い知識が必要となるなど、法曹に求められる資質も多様化・高度化している。
こうした状況に対応するため、国は司法制度改革の一環として司法試験改革を行い、司法試験という「点」での選抜ではなく、法学教育から司法試験、司法修習を有機的に連携させた新制度をスタートさせた。
その出発点となるのが法曹教育に特化したプロフェッショナルスクールである「法科大学院」である。
この新制度によって、国は司法試験の合格者数をこれまでの2000人前後から3000人程度に増やすことを目標としており、同時に経済学や理数系、医学系など他分野を学んだ学生や社会人として経験を積んだ人などを幅広く法曹界に受け入れる方針だ。
法科大学院は、全国で74大学(国立23校、公立2校、私立49校)が設置しており、総定員は6000人弱。福岡県内では九州大学、西南学院大学、福岡大学、久留米大学の4校がある。
法科大学院に入るには、まず適性試験を受け、各大学が実施する入学者選抜試験に臨む。社会人や他学部履修者を幅広く受け入れるために入学者選抜段階で配慮している大学も多く、九州大学では募集段階から法学既修者と未修者を50人ずつ分けている。選考方法も論文や面接を重視するなどして法学未修者が不利にならないよう、各大学とも配慮している。
入学すると、3年間で93〜96単位以上の取得が修了要件となる。法学既修を対象にした2年のコースもある。修了すると新司法試験の受験資格と「法務博士」の専門職学位を取得できる。
また、社会人から法曹を目指す場合の障害となる経済的な問題をサポートするために、国が総額100億円を超える奨学金制度を用意しているほか、各大学でも奨学金や授業料の減免など独自の制度を設けている。
法科大学院のカリキュラムは、学生15人に対して1人の専任教官の配置が義務付けられるなど、少人数で密度の濃い授業が行われている。法理論教育に加えて、弁護士の監督指揮によって事件内容の具体的事例に即して学ぶ機会や、法律事務所や企業法務部での研修など、実務との懸け橋を強く意識した内容を各大学とも用意している。
また、福岡県の場合は福岡県弁護士会が積極的に4大学の法科大学院をサポートしている。
県弁護士会では7つの先端科目を4大学の法科大学院に提供し、この7科目については4大学間で単位の互換性が認められている。
また、法科大学院を修了した後、司法試験(5月)から合格後の司法修習開始(11月末)までの間の修了生サポートとして、法律事務所でのアルバイトを受け入れている。昨年は5事務所で6人がアルバイトをし、今年は九州に枠を広げて20人を超える修了生を受け入れている。
9月に発表された2008年新司法試験の合格者数は2065人で、法務省が目安としていた2100〜2500人には届かなかった。合格率は33%だった。
社会人や他学部履修者をより多く受け入れるためには、合格率をアップして法科大学院をより魅力的にする必要があるという認識の下、定員削減や統廃合などの見直しが検討されている。
一方で、法曹人口の増加が必要とされる理由の中には、都市部と地方との法曹格差の問題がある。地方でも高い水準の法曹サービスを受けられるようにするためには、各地域に高い水準の法科大学院が存在し、その修了生が地域に根付いていくことが重要だ。安易な定員削減や統廃合ではなく、教育水準のレベルアップを主眼とした法科大学院の改革が求められている。
新司法試験と法曹への道
法曹になるためのルート

新司法試験は2006年度から実施され、2010年までは移行期間として旧司法試験も実施される。新司法試験は法科大学院を修了するか、2011年から実施される予備試験に合格することが受験の条件となる。予備試験は法科大学院修了と同等の知識や素養を備えているかを見るものであり、独学でも受験可能ではあるが、事実上、これからは法科大学院で学ぶことが法曹界への入り口となる。
法科大学院を修了すると、5年以内に3回まで新司法試験に挑戦できる。3回で合格できなかった場合は、予備試験合格や再度、法科大学院で学ぶことで再び受験資格を得られる。
新司法試験は短答式と論文式の2種類で行われる。短答式は公法系、民事系、刑事系の3科目で、絶対評価で合否が決まる。論文式は倒産法、租税法など8科目から1科目を選択して文章で解答する。短答式試験の合格者の論文が採点され、短答式と論文式の総合評価で最終的な合否が決まる。
新司法試験に合格すると司法修習を受け、司法修習生考試に合格すると法曹(裁判官、検察官、弁護士)となる資格を得る。
福岡県弁護士会
牟田 哲朗
弁護士
拡大する法曹需要 多様な人材求む!
福岡県弁護士会では、1990年から当番弁護士制度を始めましたが、これをきっかけに法曹の偏在に気付かされました。福岡県は他県に比べると弁護士の数は多いはずですが、それでも大きな格差があったのです。また昨年の中小企業へのアンケートでは、東京などに比べて法的手続き以外のことで弁護士に相談する機会が少ない。「法文化」では福岡県はまだまだ成長の余地があり、法曹需要は実は大きなものがあるのかもしれません。
法科大学院は、大学で法学を学んでいなくても最短3年で法曹への道を開くものです。司法試験というと難関という印象がありますが、法曹の仕事で大事なのは、法律の条文や判例を覚えるだけではなく、依頼者の状況や心情にどれだけ近づくことができるかという、共鳴力です。法律以外の学部や社会人としての経験・知識は、法曹として大きな力となるのです。
来年から始まる裁判員制度でも法曹に興味を持っていただく機会が増えるかもしれません。そうした中から多くの多様な人材に法曹界を目指していただくことを切望しています。