西日本新聞

Fukuoka Ruby Forumがもたらす次世代ビジネス 福岡から世界へ発信

世界中で愛される国産のコンピュータープログラミング言語「Ruby」

特別講演

「世界に広がるRuby」

まつもとゆきひろ氏
Ruby開発者
ネットワーク応用通信研究所
フェロー
まつもとゆきひろ氏

 本日の講演タイトルは「世界に広がるRuby」ですが、Rubyは既に世界中で使われているので正しくは「世界に広がっているRuby」でしょう。正確なデータはありませんが、例えば米国の電話会社AT&Tが提供するインターネットの電話帳サービス「イエローページズ・ドットコム」や日本最大のレシピサイト「クックパッド」など、ウェブ2.0と呼ばれる新しいウェブサービスの5割以上はRubyで作られているのではないでしょうか。
 ソフトウエアは私たちの生活を支える社会基盤です。一方、ソフトウエア開発者の職業はきつい、帰れない、給料が安い「3K」とまでいわれています。社会がITを求めているにもかかわらず、開発者が自らの仕事を3Kと自嘲(じちょう)する現状は間違っていないでしょうか。
 Rubyの開発には生産性の向上と変化への対応に重きを置いています。一説によれば「1人のプログラマーが1日に生産できるプログラミングの行数(量)は、プログラミング言語の種類によらず一定である」といわれます。量が一定ならばより高いレベルで記述できる「抽象化の度合いが高い」言語を選択すれば、それだけ生産性が高まります。私は、頭の中のイメージを可能な限り直接コンピューターに伝えられるようRubyを改良してきました。
 また、ソフトウエア開発の現場では、仕様書の通りにシステムを開発したにもかかわらず、発注元から「作り直してくれ」と言われることが多々あります。その原因の多くは、発注元が本当に作りたいものを理解しておらず、完成物を見て初めて間違いに気付くことや、開発期間中に生じる環境の変化です。
 劣化を防ぐためにソフトウエアは環境の変化に対応していくべきですが、個々のプログラムが密に絡み合うソフトウエアの性質上、想定外の変化への対応は困難です。例えばショッピングサイトの開発後、「一定期間だけポイントを十倍にする機能が欲しい」と思わぬ追加要求が発生したために、一から作り直す場合などもあります。
 こうした問題に対応するため、絡み合った一部分だけを切り離してテストできるように設計されていることもRubyの大きな特長です。Rubyが世界中で愛されているのはこうした理由のためだと自負しています。Rubyには「世界に広がる」言語ではなく、「世界を広げる」言語になってほしい。豊かで柔軟な社会の実現にRubyが役立つとすれば、こんなに素晴らしいことはありません。

大賞受賞者のプレゼンテーション

Rubyはまるで日本の「禅」

サジ N. ハミード氏
壇アジア太平洋経済協力気候センター
(APCC)上級研究員
サジ N. ハミード氏

大賞作品 APCCは自然災害による人命の損失を最小限に抑えるため、韓国の釜山市に設立された非営利の団体です。日本や韓国と比べ、東南アジアやアフリカ、インドなど自然災害への対策準備が整っていない途上国では自然災害による甚大な被害が出ています。
 これらの途上国に災害情報を提供するために、APCCではRubyを用い、国際的な科学技術ネットワークを活用して収集したデータをもとに気象予測をする「CLIK」を開発しました。Rubyはプログラムの開発だけでなく、複数のプログラムの接着剤の役割としても有効に機能しています。非常に生産性が高く、親しみやすくて優雅なRubyには日本の「禅」のような印象があり、何より開発が楽しく、とても気に入っています。
 今後は、県や市レベルでの詳細な気象予報の提供、データ交換の実現を目指し、2010年には先進国と途上国間でのコミュニケーションに役立つ科学者同士のコミュニティーサイトを作る予定です。

優秀賞賞のプレゼンテーション

世界へつながる懸け橋

佐々木  勉氏
ナインアローズCEO
佐々木 勉氏

 ナインアローズは「9Arrows」のオープンソース化に当たり、3つのIT企業が集まって設立した会社です。
 Rubyが持つ「人を幸せにする」哲学と、Rubyにより「知識を共有しよう」「チャレンジしよう」と意気込む人々が集まってくる環境は、非常に居心地が良いものです。「9Arrows」をオープンソースとして公開した2008年9月以降、75カ国から約1万1000回ものダウンロードを受け、登録者数は約5000人に上ります。今なお1日に20~30人程度増加しており、私にとってRubyは世界へつながる懸け橋のような存在です。
 現在、当社ではグーグルをRubyで拡張するソフトウエアを四種類開発しており、今後2カ月でさらに四種類のソフトウエアを開発する予定です。Rubyの持つ強力なパワーを生かし、今後もソフトウエアの開発に取り組み、より良い未来への可能性を信じて活動を続けます。

自治体システムを省コスト化

柴田  直樹氏
まちづくり三鷹取締役事業部長IT事業本部長
柴田 直樹氏

 本システムは複数の公共図書館や学校図書館をインターネットで結び、約70万件の図書情報を素早く検索、管理できる図書館業務基幹システムであり、Rubyの特徴を生かして大幅な開発コスト削減を実現しました。
 今後はRubyを使い、自治体のコストを削減する各種システムの開発と運営管理、技術者育成などを軸に地域活性化に貢献する考えです。
 概して日本の自治体は、保証する法人が不在となるオープンソースシステムの導入を敬遠する傾向があるため、当社は地域の業者と連携して保守運用を担う人材育成をしながら自治体への導入を進め、同時に若者の雇用を確保するビジネスモデルを想定しています。
 Rubyの持つ可能性に期待し、今後は八王子市、立川市、三鷹市、青梅市の四市が共同でRuby人材を育成していく予定です。福岡の皆さんと連携し、共に新しいビジネスを育てていきましょう。

社員全員がRuby愛好

ルーク・ケーニーズ氏
(個人受賞)
ルーク・ケーニーズ氏

 パペットの目標は、システム管理者の煩雑な業務を楽にすることです。そこには、これまでのシステム管理業務の中で私が幾度となく試行錯誤した経験が生かされています。すべてRubyで作られており、日本も含め世界中で使われています。パペット自体はオープンソースですが、サポート提供などでビジネスを展開しています。
 現在のパペットを作る前に、パイソンというほかの言語を使って4、5年ほど開発を進めてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。そんなある日、私の苦労を見かねた友人がRubyを使い、わずか4時間程度でパペットシステムの試作品を作り上げてしまったのには驚きました。今では当社の社員全員がRubyでの開発を楽しんでいます。
 今後はRubyをベースに、システム管理者の仕事を助けるさまざまなツールを作る予定です。

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