福岡をアジアの食都に。
福岡の「食」を観光資源化しようという「ふくおかライブフードプロジェクト」構想。豊かな自然がもたらす恵みと、アジアに開かれた歴史・文化に味付けされた福岡の「食」は、既に市内外の人々から高い評価を得ています。さらに多くのおいしい出会いを生み、国内にとどまらず「アジアの食都」にしていくためには、今ある食材や人材をどう磨き、活用すればよいのでしょうか。「ライブフードプロジェクト」のキックオフ座談会として、生産者や料理人など福岡の食のフロントランナー4氏が、福岡市長を囲んで語り合いました。司会は中村昌子・西日本新聞社事業局「ふくおかマルシェ」担当。
福岡はどんな街か
─まずは「ふくおかライブフードプロジェクト」構想の概要と、「なぜ今なのか」という狙いを福岡市長に伺います。
吉田市長 このプロジェクトは、福岡の食材にかかわる生産者と料理人の双方を発掘し、出会いを促すことで新たな食文化を生み出し、国内外へとアピールするものです。福岡は、世界的に「食の都」として知られる仏ボルドーや中国広州、韓国の「食の観光都市」釜山と姉妹都市になっていますし、今年は中国からの大型クルーズ船が昨年の3倍近い66回も寄港するほか、2月に開かれたプロ野球交流戦のような日韓交流など、対アジア交流は強まるばかり。2011年には九州新幹線鹿児島ルートの開通も控えていて、福岡を「食の都」として売り出すのに追い風となるダイナミックな動きがあるんです。
─「商人の街」として古くからアジアに開かれ発展してきた福岡には、うどんやまんじゅうなど、新しいものをどんどん取り入れる気質があります。食に携わるお立場から、福岡の食文化をどうとらえていますか。
吉田(安) 食文化は放っておいても育たない。私は料理人たちが集まる「博多食文化の会」で福岡の「食」をPRする冊子を作ったり、それを韓国で宣伝したりして、福岡の「食」をあるべき姿に「調(ととの)える」ことに取り組んでいるんですよ。しかし吉田市長の「食の都」宣言を機に、行政とも協力して、今後は文字通り街ぐるみでやっていきたい。観光市場やアジアンタウンをつくったりすれば、新しい博多の食文化も生まれるんじゃないかな。
新井 欧州での滞在時に感じたのは、日欧で開きが大きい「食べる側の意識」。少し大げさかもしれませんが、ヨーロッパの人々が買い物をするとき、選挙で一票を投じるくらいの意識を持って「商品や料理の向こう側にそれを生み出した人々を支えるんだ」という重みを、日本人のそれよりも強く持っているように感じます。日本の消費者にも、メディアがもっと生産者や作る側の現実を消費者に伝えてほしい。食育は、子どもよりもむしろ親や大人が先に受けるべきだと思うんですが。
吉田市長 素材そのものや、生産者、料理人を含めて、料理がもたらす恵みに感謝する気持ちの大きさが食文化をつくるんだろうと思います。「食の都」といっても、決してグルメシティーをつくりたいわけじゃない。季節の味わいや人情みなぎる屋台文化、アジアとの交流によってはぐくまれた料理やお菓子など、この土地を愛する思いで「食の都」を盛り立てたいと思っているんです。
消費者の関心は?
─私が運営に携わった都心での青空市場「ふくおかマルシェ」は、食材を介して「つくる人」と「食べる人」をつなぎ、それを街の文化にしてしまおうという思いがありました。実際に出店してみて、どうでしたか。
堀田 私は和牛専門店として出店しましたが、最大の喜びはお客さまとの会話でした。直接販売は9年前のBSE(牛海綿状脳症)の騒ぎを機に、生産者として食の安全を直接伝えたくて始めました。それまでは作って出荷するばかりだったからです。マルシェで都心のお客さまと話し、提供したもつ鍋を「おいしかったよ」と言われると、こちらも張り切って「この牛はこう育てたんだ」「野菜は○○産で…」なんて話したりして。つながりを感じた場所でした。
ゴトウ 私は九州各地の農家と「食べる人」をつなぐお手伝いをしようと、野菜ベーグルを販売しました。マルシェでの会話で一番変化を感じたのは、買う側の価値観。200円と値札を付けてぽんと置いていれば「高い」と思われることも、こちらが素材にまつわる思いやストーリーを伝えることによって、「買ってみるか」とも「また食べたいな」とも感じてもらえる。そんな変化がお互いに刺激になりました。
─最近は、食材を自分で選んで料理する「ウチ食ブーム」のように、料理に対する興味も高まっています。
作り手側の現場ではどんな変化があるでしょうか。
吉田(安) 燃料自体も変わっていますよね。私が料理を始めたころは石炭を使っていたので、最後のお客さんには「今日は火を落としちゃいました。終わりです」なんて言っていたのに、それが今は、ガス、そして電気エネルギーなんですから。調理場が快適になって味の追求に集中しやすくなりましたよ。CO2(二酸化炭素)をなるべく出さないことや、省エネなどの「環境」配慮もキーワードになりつつあるようですね。
堀田 生産現場では減農薬農法が増えています。さらに私の牧場では、循環農法も実践しているんですよ。牛を飼い、そのふんを堆肥(たいひ)にしてお米をつくり、稲わらからつくったエサを牛が食べる─。おいしいお米お肉のセット販売がお客さまにも喜ばれています。
なるだけ農薬を使わず、大地の力や食物の力を中心に育てる。そういうエコな食づくりが付加価値になるのです。福岡は大量生産できる場所ではないので、付加価値を付けた農業を進めていくのも必要ですよね。
吉田市長 福岡市が応援している取り組みのうち、最近のヒットは、市内西区・唐泊でのカキ養殖です。新しいものをつくってみようと始まりましたが、冬場はカキ焼きのための渋滞が起こるほどの人気ぶりです。ほかにもカツオ菜の活用や長浜鮮魚市場の開放などを通して、生産者を守り、農山漁村と都市をつなぐ活動をしています。
次世代担う人材の育成
─食と農業は、結果が出るまで時間のかかる産業ですよね。それを支える人材の育成については、どうお考えですか。
吉田(安) 料理を志す人の中でも、料理人といわれるところまで達する人が減ってきたんじゃないかな。
新井 料理人を志す人は、少なくないと思うんです。福岡には専門学校など教育機関も多いし。ただ、現場で待っているのは低賃金・長時間労働。料理人の育成だけでなく、同時に食の現場に携わる人たちを守る意識を踏まえた料理への対価を支払うことを、消費者に啓発していく必要があると思います。
ゴトウ 農業の担い手の育成は本当に厳しい。最近就農した知り合いが「ここ1、2年の時給は120円くらいだ」と苦笑いしていました。農産物の価値を上げるには、生産者だけでなく消費者側の理解も必要なんですよね。しかし消費者に「理解を」と呼び掛けるだけでは足りない。農園開放などで都心の人を田舎に引っ張り込んで収穫の喜びを知ってもらったり、マルシェを通して生産者が都心に出て交流したりすることが大事なんだと思います。
堀田 私の牧場では、小学生を対象に農業体験を実施しています。2日間でやってもらうのは、田んぼの手入れや牛舎のそうじなどさまざま。後継者を育成するのとは少し違いますが、子どもたちに「食べられるための命」に接してもらい、自分たちがどうやって生きているのか、生かされているのか、感じてもらいたい。 生産するだけでなく、小さな積み重ねを通して、食への感情が豊かな人々でいっぱいの街にしたい。そんな思いでやっています。
─最後に、食の観光資源化について、アイデアがあればお話しください。
ゴトウ 福岡にはまだ隠れたおいしい食べ物がたくさんあります。例えば、うきは市の流川レンコンもそう。これからはそれを売るだけじゃなくて、どこで売っているとか、どこのレストランで使われているとか、食材中心の情報発信の形があっても面白いんじゃないかな。
堀田 マルシェに参加してみて、都心のお客さまが気軽に立ち寄れる産直市場が欲しいという気持ちが強くなりました。そこで提案したいのが、都市高速道路沿線の産直市場開設。市内どこからでもさっと行けるし、博多のモツ鍋やラーメン、新鮮野菜、お肉などが集まっていれば、市外のお客さまも引き付けやすい。「食の都・福岡」の顔になるような場所があったらいいなと思います。
新井 この座談会でいろいろなキーワードが出てきましたが、「作る人」も「加工する人」も「食べる人」も、それぞれに「つながる」ことを求めているんだと感じました。三者の三角形がうまく整わないと「食」はより良く回っていかないし、「食の都・福岡」としても盛り上がらないですよね。今必要なのは、それぞれの立場に点在するアピールポイントやニーズを何かのアイデアでつなぎ、面として外に情報発信していける人。そういう人を集めてプロジェクトチームをつくってもいい。もちろん吉田市長はそのトップセールスマンになるんでしょうけど。
吉田(安) まずは吉田市長に「福岡はうまい街宣言」を高らかにしてほしいですね。ただ、博多祇園山笠にしても博多どんたくにしても福岡の祭りはたくさんあれど、残念なことに博多の祭りといえば…という祭り料理がない。「おきゅうと」に塩の利いた「あぶってかも」、そして「がめ煮」に「水炊き」などの名物料理があるのにもったいないことです。外から見物に来る人に「山笠見てあれ食べよう」と楽しみにしてもらえるように、福岡の街を案内するのにストーリーを添えてアピールすべきです。手っ取り早く街歩きを楽しくできそうな気がしますよ。
吉田市長 食材への視点を変えた取り組みの一つに「夏ふくキャンペーン」があります。フグといえば冬の鍋料理「ふぐちり」の印象が強いですが、身が最も太るのは、実は夏。そこでフグ職人の皆さんが夏にフグを味わえる清涼感あるメニューづくりに挑んでいるところです。「食の都」としては、今後もそうやってメニューに広がりを持たせることもするし、委員会などで食をトータルに考えることもやっていきます。そのためには食のフロントランナーでいらっしゃる皆さんの力添えが不可欠。一緒に福岡の食を磨き、この地に食を求めて人がにぎわう街にしていきましょう。