スナックは地域の財産 別府出身 首都大・谷口教授が研究 人口当たり軒数 九州上位独占 大分県

スナック研究を続ける谷口功一氏。「スナックは生活の一部で、家みたいなもの」という
スナック研究を続ける谷口功一氏。「スナックは生活の一部で、家みたいなもの」という
写真を見る
狭い路地にスナックや飲食店の看板が並ぶ別府市の繁華街
狭い路地にスナックや飲食店の看板が並ぶ別府市の繁華街
写真を見る
「雨が降っても熱が出てもお客さんと話すのが好きなんよ」。ママの橋本宏枝さんはそう話す
「雨が降っても熱が出てもお客さんと話すのが好きなんよ」。ママの橋本宏枝さんはそう話す
写真を見る

 ●触れ合い「観光資源に」

 扉を開ければ、いつもそこにママがいる。隣にいる人は初対面なのに、昔からの友人みたいだ。毎夜、重ねる杯、そして広がるつながり。そう、ここは夜の社交場スナック-。この空間に公共性を見いだし「スナックから地方創生を」と、情熱を傾ける九州出身の研究者と大分で出会った。

 ☆「だって好きだから」

 その人、首都大東京の谷口功一教授(43)。法哲学が専門で、普段は「法律とは、正義とは何か」を研究しているという。

 専門の内容から堅物をイメージしがちだが、「これまで夜の街で消費した金額は家1軒に達するかも」。別府市の繁華街に生家があり、原風景に“夜の世界”があるという。

 そんな氏が目を付けたのがスナック研究。「好きだからねぇ」と笑いつつ、「人が集まり、すぐに知らない人と打ち解ける。スナックという社交の場、公共性を真面目に考えるべきなんじゃないかと」。

 2015年10月、学者仲間8人と「スナック研究会」を発足させた。憲法、政治学、日本文学・美術、漢文学・思想などを専門とする第一線の研究者が集った。谷口氏が代表に就き、研究費はサントリー文化財団(大阪市)から出た。

 ☆「安全な街」に貢献?

 研究会は月1回、やはりスナックに集まり議論を重ねている。これまでの会合のタイトルを見ると「夜の公共圏と本居宣長」「規制対象としての実態と振興対象としての可能性」「スナックの政治経済学」。大まじめに研究を進めている。

 さて、何が分かってきたのか。谷口氏は「ちゃんとまとまるまで話せない」と言いながら、9月下旬に故郷・別府市で開いた講演会で一部を披露した。

 それによると、全国のスナック数は約10万軒、多く見積もって16万軒。驚くのは、都道府県別の人口10万人当たりの数字だ。1位は宮崎で164軒。さらに4位に長崎(132軒)、6位に大分(122軒)、10位に佐賀(101軒)と続き、九州は“スナック王国”の様相を見せる。スナックが多い地域ほど、刑法犯認知件数が少ないとの分析結果も出ているという。

 出張のたび、現地のスナックに立ち寄る谷口氏。住民と知り合え、地域を知ることもできるからだ。「スナックを観光資源として地域の財産と認識し、積極的に活用策を出せないか」。そんなことまで考えている。

 ☆みんなくつろげる家

 谷口氏の話に感化され、仕事の帰り、大分市の繁華街に繰り出した。

 午後11時。ビル5階にあるスナック「奇跡」を訪ねた。カウンター9席とボックス席が一つ。店内には、地元出身の歌手南こうせつさんが歌う「妹」が流れていた。

 1人で切り盛りする橋本宏枝さん(67)は、ママ歴28年。夫が体を壊し、生活を支えるために夜の街に入った。派手な世界を想像したが、見習いで働いた店のママが「市原悦子さんそっくりで、これなら私もできるかなって」。

 「お客さんと話すのが楽しくて」。医師、公務員、左官業、幼稚園教諭、銀行員…。男女問わず20代から80代、飲める人も飲めない人も。客同士が親睦団体をつくり、旅行するようになった。店で出会い、結婚したカップルもいる。

 「スナックには、若さも美貌も必要ない。大事なのは思いやり。みんながくつろげる家のようになりたいわ」

 気が付けば深夜2時。そろそろ帰らねば。時間無制限でビールと焼酎が飲み放題、手作りの小鉢も付いて、3千円。「また、来てね」。ゆっくりで、温かみのある言葉が仕事で疲れた体に染み渡った。たかがスナック、されどスナック、である。

この記事は2016年10月20日付で、内容は当時のものです。

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]