それぞれの春(3)失意の君へ 先生はどう声を掛ける

卒業証書を抱え、思い出の校舎を後にする中学生。第1志望の高校に合格できる生徒ばかりではない
卒業証書を抱え、思い出の校舎を後にする中学生。第1志望の高校に合格できる生徒ばかりではない
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 受験は容赦なく明暗を分ける。志望校に合格できなかった失意の生徒に、先生はどう声を掛けているのだろう。

 福岡県では15日、公立高校の合格発表があった。県内の公立中学で3年生を担任するタカダ(30代)=仮名、昨年12月20日掲載=は学校で、生徒が試験結果を報告しに来るのを待った。この日は、担任した生徒たちと顔を合わせる最後の日となる。

 これまで2度、3年生を担任した経験から、今年は心に決めていることがあった。合否ギリギリラインから合格した生徒にも、大げさに喜んだりはしない。不合格になって落ち込む生徒への気遣いだった。

 今年はクラスで3人が不合格となった。2人は厳しかった。1人は安心して送り出したが、当日に力を出し切れなかったようだ。「私立で頑張ります」と気丈に振る舞う横顔に、悔しさがにじんでいた。

 「結局、前へ進むしかないからな。自信を持って生きなさい」。タカダはこう告げた。

 泣きだすことがあっても「大丈夫」とは言わないことにしている。「15歳にとっては冷たいかもしれないけど、これまでやってきたことを生徒がどう捉えるかが大事。感情だけでなく、現実と向き合わせることが教員の役目だから」

 うれしい知らせもあった。

 マイペースだった生徒が、最後の追い込みで志望校に合格した。家計が苦しく塾に通えなかった生徒も希望の公立に進んだ。親と進路でもめた生徒は、自分で選んだ学科に入った。そして、不登校だった2人もそれぞれ高校への進学を決めた。

 タカダは1月、教室で生徒にこう話していた。「合格と不合格。どちらの自分も想像しておくように」。15日は報告に来た生徒と1人ずつ握手した。「成功しても失敗しても、人生はこれから。まだまだ何でもやれる」。そんな思いを込めて。

   ◇   ◇

 受験生と交わすノートに、教諭が一筆添え、励ましを続けた福岡県立宗像高校(宗像市)=1月24日掲載。記事にも登場した進路指導部主任の井地誠教諭(48)を訪ねたのは11日。翌日は国公立大の後期試験で、受験勉強はまだ続いていた。井地教諭は、「震災復興」「貧困対策」「障害者雇用」などをテーマに、生徒たちがつづった小論文の指導に追われていた。

 「自分に何ができるか、自分らしく生きる…。そんな視点が大切なんじゃないか」

 井地教諭は前期試験発表の8、9日、インターネットで公表された受験番号で生徒たちの合否を知った。合格者は九州大11人、熊本大8人…。だが、それぞれ約2倍の生徒が不合格になっていた。

 不合格だった生徒も進路指導室を訪れ、報告してくる。模試でA判定だったのに、不合格になる生徒もいる。泣きだす生徒もおり、井地教諭はこう声を掛ける。「きょうは一日、泣きなさい」

 井地教諭も30年前、泣いた受験生だった。

 井地教諭は高校時代、小学校教諭になろうと思った。だが、3年2学期までサッカーの部活動を続け、年明けの共通一次試験(大学入試センター試験の前身)は惨敗。国公立大は受験せず、浪人を決めた。

 1浪して、私大経済学部に合格。第1志望ではなかった。ピアノが弾けなかったので、高校の社会科教諭を目指す。大卒後の教員採用試験も、採用抑制時代だったこともあり、5度目で合格した。「だから、生徒たちのきつさ、つらさ、ものすごく分かるんですよ」

 だが、井地教諭はこうも思う。「浪人して良かった。勉強の大切さ、自分に足りない所を1年かけて学ぶ。それは決して無駄ではなかった」

 自らの歩みを語りながら、井地教諭は生徒に問い続けた。

 「君が本当に行きたいところはどこだ?」「将来何をして、何を学びたいのか?」

 大学全入時代、パソコンにデータを打ち込めば、入学可能性の高い大学は割り出せる。最近は、家計の事情もあり、浪人したくても、できない生徒も少なくない。生徒たちはいろんな事情を抱えている。「だが、それぞれが納得する合格、不合格であってもらいたい」。そう考え、指導を続けた日々だった。

=2016/03/20付 西日本新聞朝刊教育面=

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