小1プロブレム(4)家庭訪問 子どもの背景を探る

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 「胸の名札を見なくても、やっとクラス全員の名前を呼べるようになりました」
 
 入学式から1週間たった19日。新1年の学年主任になったイシイ教諭(50代)を訪ねると、そんな言葉が返ってきた。

 その日は1年生にとって初めての給食の日。給食を運ぶ係、机を拭く係、器につぐ係…。8人ずつの分担も何とかこなし、「みんな、もりもり食べてくれた」。翌20日からは「昼休みの掃除」も始まった。「でも、あの学習をこんなに早くするとは、思ってもみなかった」

 熊本地震が起きた翌15日(金曜日)の「朝の会」。イシイが切り出す前に、子どもたちが話し掛けてきた。「きのう、揺れた」「スマホ(スマートフォン)の音(緊急地震速報)にびっくりした」。発生時刻は午後9時26分ごろ。聞けば、もう眠っていて、知らない子も少なくなかった。

 学校で地震があったら、まず頭を覆い、机の下に身をかがめる。私語をやめ、先生の指示に従い、集団で避難する-。

 いずれは1年生でも学ぶのだが、こんなに早く防災教育に取り組むのは初めてだ。

   ◇   ◇

 激動の1週間だった。

 より課題の重たいクラスの担任となったイシイ。入学式翌日の「学級開き」ではピーク時、4人の支援を受けたが、数日すると「きちんと先生の話を聞く時間が増えた」。学級運営の手応えをつかみつつあるという。

 最も有効だったのは、イシイが出す「サイン」だったという。私語が増え始めると、両手を胸の前で広げる「静止サイン」。ナイスプレーには親指と人さし指で「OKサイン」、やってはいけないことには人さし指を交差させ「×サイン」…。

 「言葉で叱るより、視覚的な指導が有効」という、前年度まで特別支援学級の担任だったイシイの経験を生かした指導法でもあった。

 1年生と6年生がペアを組み、学校生活のイロハを学んでいく「異学年交流」も、子どもたちの学校への「慣れ」を後押ししてくれた。

 次の指導のヤマ場は5月の連休明け。教科書を使った授業が本格化し、子どもたちのストレスはぐんと高まるからだ。そこで鍵を握るのが「学校と家庭の連携」。子どもたちの家庭訪問もそのころ始まる。

   ◇   ◇

 イシイは4日間かけ、約30人の家々を回る予定だ。「ちょっと上がらせてもらいます」と言って、家の中まで入る。子どもの暮らしと背景が見えてくる。

 (1)どんなお子さんですか(2)学校側で何か配慮する点がありますか(3)友人関係で心配な点がありますか?

 滞在時間は10分程度。そして最後に必ず聞く質問がある。

 「どんなお子さんに育ってもらいたいと思いますか?」

 その回答の中に、家々の価値観や親の願い、求める教育像がうかがえるからだ。子どもの名前の由来などもそこで知る。ただ、「そうですね。う~ん」と言葉に詰まる親も少なくない。つまり「無回答」。「急に聞かれて、難しい問いだとは思うんですが…」。イシイは気掛かりだと言う。

 同僚教諭の中には「部屋が散らかってますから」と、入室を断られ、近くの公園のベンチで親と話をしたケースもかつてあったという。「昔は、先生どうぞ、どうぞという感じでしたけどね」とイシイ。家庭と学校の距離の変化も感じている。

 イシイはかつて、どんな小学1年生だったのだろう?

 「家では元気だけど、学校ではおとなしく、手も挙げきらん子でした。だから、学校で静かな子の気持ちは分かる」

 課題は山積しているが、イシイは、そんな少年時代も思い起こしながら、もう一歩、踏み出そうとしていた。

 「幼保」「小」段差に配慮を

 「小1プロブレム」の問題を含め、親は子どもにどう接すればいいのか。福岡こども短大(福岡県太宰府市)の武部愛子教授(臨床心理士)に聞いた。

 幼稚園と小学校を比べてみると、かなり違いがある。45分刻みのチャイム、教科書、対面式の一斉授業、施設の広さなど、小学校に入学したばかりの子どもは面くらい、緊張を強いられているだろう。

 少子化も絡み、個性化が進む幼稚園では子どもの自由度が高まりつつある。その結果、集団行動や規律が求められる小学校との「段差」も高まり、子どもは日々、闘いの中にいる。

 家の中の子どもと、学校(集団)での子どもの姿もかなり違う。家ではいい子でも、学校では問題行動を起こしたりもしている。そのことを多くの親が実は知らない。

 子どもたちを笑顔で学校に送り出し、迎えてあげることが大切だ。「よく頑張ったね」と無条件に受け入れてあげてほしい。(談)

=2016/04/24付 西日本新聞朝刊教育面=

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