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アクティブ・ラーニング(3)集団づくり 学び合いへの必要条件

南筑高校であった地理の授業。「世界の宗教分布」がテーマで、生徒同士で話し合いながら、全員正答へと向かった=9日
南筑高校であった地理の授業。「世界の宗教分布」がテーマで、生徒同士で話し合いながら、全員正答へと向かった=9日
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 「教師として、準備を重ね、授業を始める。生徒は黒板の文字をノートにまじめに写してくれている。でも、手応えが感じられない。しかも、しばらくすると数人が居眠り。そんな自分が許せなかった」

 福岡県久留米市の市立南筑高校。スポーツ強豪校として知られる。同校では5年ほど前から、学校全体でアクティブ・ラーニングに取り組むようになった。その発端は数学教諭たちの授業への危機感。大屋真一教諭(36)もその一人だった。

 一般的に生徒の一部は小学5年ごろ算数でつまずき、数学嫌いになる傾向にある。学力格差は高校ではさらに広がり、もはや一斉授業では太刀打ちできなくなっていた。

 悩みを深めていたころ、広島県のある高校の授業を見学し、衝撃を受ける。佐藤学さん(東京大名誉教授、現在は学習院大教授)が提唱する「学びの共同体」づくりに向け、生徒同士の対話、学び合いを中心にした協同学習に取り組んでいた。

 「う~ん、どう言えばいいか。『さあ、やってみよう』と、教師が問い掛けたときの、生徒の反応や姿勢。教師や黒板の方向ばかりではなく、左右の級友と話しながら学ぶ多様な姿とか、教室の空気感が違っていた」

   ◇   ◇

 アクティブ・ラーニングにつながる、このノウハウを参考に、大屋教諭も協同学習の時間を増やしたり、机の配列を「コ」の字型に変えたりした。だが、しばらくすると授業はにぎやかすぎたり、マンネリ傾向も見られたりするようになった。

 「何が足りないのか」。同僚と話し合う中で一致したのは「生徒同士がざっくばらんに意見を言い合える集団づくり」。いじめの問題などもあり、生徒たちは意見の対立を好まない傾向にもある。生徒同士の信頼関係、人の話をじっくり聞く傾聴、異論の受容姿勢がなければ、アクティブ・ラーニングは成立しない。

 そこで、同僚たちと考えたのが「六つの約束事」=別表参照。協同学習のルールやマナーを掲げたものだ。人のつながりを考える人権・同和教育を土台として取り組み、生徒の表情も変わり始めたという。「生徒たちを見ていると、集中して考えているとき、意外と静かだったり、ぼそぼそ声」。大屋教諭はそんな場面こそ、実は生徒の学びがアクティブになっているとも考える。

   ◇   ◇

 3こまの授業を見た。

 3年生の「地理」。世界各地の宗教と地図を対応させていく学習。中尾慎矢教諭(36)はまず音声を流した。何の音? イスラム教の礼拝を呼び掛けるもので、生徒のつかみはOK。続いて、八つの画像を映し出し、何の宗教か、地図上のどこの国かを、まず1人で考える。3、4人のグループ学習に入ると、話し合ったり、教科書をめくりながら、全グループが正答に向かった。

 2年生の英語授業では、ペアを組み、英単語の意味とスペル、発音を、Q&A方式で互いに確認し合っていた。いずれの教科も「暗記科目」と捉えられがちだが、英語担当の佐伯綾香教諭(41)は「一人で黙々と書いて、覚えるのはモノトーナス(単調)。ペア相手の声やヒント、話の脱線を含め、学ぶべき情報や知識が色づけされ、身に付いていく」と話す。

 2年生を対象にした「数学2」。√(平方根)の応用問題を解く授業で、グループ全員が正答すると、次のプリントに移行する。だが、あるグループでは1人だけ解けない。「惜しい」「頑張れ」。級友もアドバイスし、大屋教諭も指導するが…。その道筋は容易ではないこともうかがえた。

 難しい問題 背伸びする一歩

 「学びの共同体」とはどんなものか? 提唱者の佐藤学さんに6年前、取材したとき、佐藤さんはこんな話をしていた。

 「学力というと、基礎から発展へと下から積み上げていくのが、学校現場の常識だが、本当だろうか。先生の多くは、課題につまずいた子どもがいれば、基礎までの階段を下り、また上り直そうとする。実は子どもの多くが退屈している」

 「むしろちょっと難しそうな課題と向き合い、友達や先生が一緒になって、分からない子を引っ張り上げてあげる。なるほど、分かったという瞬間をつくってあげる。分からないことを分かろうとする、背伸びとジャンプこそが、学びの一歩になる」

 「強さ(できる、分かる)でつながるのではなく、もろさ(できない、分からない)で、子どもたちがつながることが大切だ。子どもたち一人残らず、学ぶ権利を保障する-教育の目的がそこにあることを忘れてはならない」

=2016/09/18付 西日本新聞朝刊教育面=

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