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AI時代 人の強みは「発問力」 広中平祐さんに聞く

「創才」について語る広中平祐さん
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数学 無駄や失敗も楽しみながら

 福岡市で8月、数学や理科が好きな中学生を対象にしたセミナーが開かれた。数学者の広中平祐さん(86)が代表理事を務める財団法人「数理科学振興会」が主催する「創才セミナー」。「創才」という言葉に込められたメッセージは何か。数学や理科を学ぶ楽しさって何だろう。広中さんに聞いた。(聞き手は編集委員・佐藤倫之)

   ◇   ◇

 -広中さんの著書を読むと、数学に興味を持った原点として、中学校時代に出会ったある先生が登場します。

 広中 「タンジェント先生」ですね。サイン、コサインの三角関数から、僕たちは愛称でそう呼んでいた。大学に行かず、独学で検定を受け、教師になった人で、年配のやんちゃな男の先生でした。

 問題を解いて、先生に持って行くでしょ。すると「こうすればいいじゃないか」と教えてくれた後、「ちょっと待てよ」と、僕の解答を面白がってくれるんです。教え方も、一定の道筋を示したうえで「後はアイデアだ。考えろ」。がぜん、数学が面白くなった。先生が出してくれた問題で、今も記憶に残っているのがこの幾何問題=イラスト参照。三角関数をまだ習ってなく、2週間かかって解けたとき、「やったぞ」とうれしかった。どう証明したかって? うーん、厳密に証明するのは難しくてね。まあ考えてみてください。

 -セミナーでは、素数(その数自身と1以外で割り切れない数)やメビウスの輪(帯を180度ねじって接合)などの問題が出題され、中学生たちは3人ごとの班で考えた。興味深かったのは、図形の例題を参考に、中学生が問題を作り、そのアイデアを競うコンペだった。

 広中 AI(人工知能)やロボットが急速に進化、普及する新時代を迎えようとしています。そんな時代に人がやるべきこと、考えることは何か。それは問題をいかに早く、理路整然と解けるかではなく、面白い問題をどう作るかではないか。「問題作りのテスト」なんて面白いかもと思ったんです。

 -「創才」にもつながっているのでしょうか。

 広中 そうですね。世の中には、天才や秀才と呼ばれる人がいますが、ほんの数パーセント。でも、社会を作っているのは、むしろそういう人たち以外の人々です。新時代を切り開いていく創造力は、知識だけから生まれるものでも、経験が豊富な人にだけ生まれるものでもない。自分の特性を発見し、じっくり育み、自分なりの形にしようと努める人が「創才」。誰もやったことのない事業やイベント、商い、問題を考えていく人づくりにつながる。

 -セミナー開講式で、広中さんは歌を歌った。「ケセラセラ」の一節で〈The future's not ours to see〉(人に未来は見えない、だから面白い)。

 広中 数学をやっていると、よく「何の役に立つのか?」と聞かれます。でも、今はあまり役に立たないかもしれないけれど、10年、100年後にひょっとしたら役立つかもしれない。無駄なように思えることを、人は考え、美しい理論を導き出したりする。それはAIにはできないことです。

 学問は登山に似ている。美しい山を見ると、眺めるだけではなく登ってみたくなる。途中、岩場があったり、息切れする坂があったりもする。そこを頑張って登り続けると、頂上には素晴らしい景色が広がっている。道に迷ったり、失敗したりもするでしょう。でも、失敗をしないと、成長も進歩もつかめない。どんな山でもいい。そんな経験が「創才」につながっていく。

 ◆広中 平祐氏(ひろなか・へいすけ) 1931年、山口県生まれ。専門は代数幾何学。ハーバード大、京都大教授、山口大学長など歴任。「代数多様体の特異点解消理論」で70年、フィールズ賞、75年に文化勲章受章。

=2017/10/01付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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