「うまかろーが」と迫る上司に覚悟を 福岡人、“発祥”には強烈なこだわり

福岡の人に人気がある「豚骨ラーメン」(写真と本文は直接関係ありません)
福岡の人に人気がある「豚骨ラーメン」(写真と本文は直接関係ありません)
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「本当はしょうゆラーメンが好き」と本音を語ってくれた群馬県出身の大谷友男さん(九州経済調査協会主任研究員)
「本当はしょうゆラーメンが好き」と本音を語ってくれた群馬県出身の大谷友男さん(九州経済調査協会主任研究員)
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昔から「東京土産」として定着している「ひよ子」(羽田空港)=1997年9月
昔から「東京土産」として定着している「ひよ子」(羽田空港)=1997年9月
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東京にしか売っていない「紅茶ひよ子」(ひよ子提供)
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旧福岡女学校跡地前の電柱に設置される「ニッポン セーラー服発祥の地」の案内看板=2017年1月16日、福岡市中央区薬院
旧福岡女学校跡地前の電柱に設置される「ニッポン セーラー服発祥の地」の案内看板=2017年1月16日、福岡市中央区薬院
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サザエさん商店街通りを人力車に乗ってパレードするサザエさん=1月29日、福岡市早良区
サザエさん商店街通りを人力車に乗ってパレードするサザエさん=1月29日、福岡市早良区
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 福岡の人には福岡好きが多いとされる。その愛情は、福岡生まれの産品や食文化にも及ぶ。豚骨ラーメンやうどんにとどまらず、セーラー服や3月のホワイトデー、東京発祥と勘違いされている「ひよ子」も、その対象だ。異動で福岡に転入すると、トランプ米大統領のアメリカ・ファースト(第一)ならぬ、「フクオカ・ファースト」に共感を求められるかもしれないので、覚悟が必要だ。

 ■「本当はしょうゆラーメンが…」

 うどん、そば、豚骨ラーメンという麺の三兄弟は福岡発祥とされる。もともとは、中世に中国へ渡った高僧が製粉技術を持ち帰ったことに由来するというのが通説で、まんじゅうも福岡が発祥らしい。

 アジアに地の利があり、古くから大陸への発着港として栄えた。その歴史が、数々の「発祥の地」となった背景にあり、郷土愛の根源にもなっているようだ。

 中でも、豚骨ラーメンは「別格」。そう指摘するのは、群馬県出身の大谷友男さん(43)だ。「福岡人の福岡好き」について話を聞いているうちに、「今まで言えなかったことがある」と本音を打ち明けてくれた。

 それは、「本当はしょうゆラーメンが好き」ということ。周囲の「推し」が強くて、なかなか切り出せなかったが、豚骨は、店の排気口から外へ噴き出すスープの湯気さえ「NG」なのだ。

 職業は九州最大のシンクタンク、九州経済調査協会(福岡市)の主任研究員。「縁もゆかりもない」という福岡で就職して18年。飲み会のシメは必ず豚骨ラーメンだった。毎回、「回避したい」と思いつつ、「うまかろーが」「うまかろーが」と笑顔いっぱいに迫ってくる福岡県民の上司に「そうですね…」とうなずくしかなかったという。

 ■より「福岡通」と評価される妙手

 菓子メーカー石村萬盛堂(福岡市)が広めた3月14日の「ホワイトデー」も、福岡で創業した乳酸菌飲料「ヤクルト」も、今やすっかり全国区。

 ただ、ものによっては発祥地をめぐって、「福岡人の常識」とは異なる風説が信じられている場合もあり、注意が必要だ。

 1月5日に福岡市内のホテルで開かれた福岡商工会議所の新年祝賀会。あいさつに登壇した礒山誠二会頭(西日本シティ銀行副頭取)はこんな発言をした。

 「福岡で成功し、全国のブランドになって、最近はどこのお土産か分からないような状況になった」

 名菓ひよ子のことである。東京では、「東京発祥」と勘違いしている人も少なくない。

 ひよ子は福岡県の発祥だ。東京オリンピックがあった1964年に埼玉県に工場を建てて東京へ進出。66年に「株式会社東京ひよ子」を設立し、半世紀が過ぎた。JR東京駅の土産コーナーには、ひよ子がずらりと並び、もはや「東京土産」の代表格だ。

 ただ、福岡への土産に持参すると、「これって福岡で生まれたものなのに…と焼きもちを焼かれかねない」と指摘するのは、福岡の歴史や習慣を解説する「福博講座」の講師、斉藤寛さん(51)=三好不動産経営企画課長=だ。

 しかし、妙手がある。ヒントは東京でしか売っていないひよ子の存在。「黒糖」「紅茶」「塩」の3種類が季節ごとに販売される。

 「これなら『福岡発祥と知った上で、福岡にない土産を持ってきてくれた』と歓迎され、全ての事情を知り抜いた『福岡通』と評価されるはず」という。

■ライバル出現で増えた看板

 一方、「フクオカ・ファースト」の感情に火をつけたのが、セーラー服だった。

 1月16日。福岡市中央区薬院の電柱3本に「ニッポンセーラー服発祥の地」と記した看板が設置された。セーラー服を日本で初めて採用したとされる旧福岡女学校(福岡女学院の前身)の跡地だ。

 当初の計画では、電柱は2本のはずだった。ところが、「京都説」を伝える新聞記事が昨年末に報じられたことに福岡人の競争心が燃え上がり、1本増えたという。

 設置したのは、福岡市博多区の地域おこし団体「ハカタ・リバイバル・プラン」。会長の立石武泰さん(65)は江戸時代から続く博多商人の家系で、現在は額縁店を営む。“ライバル”の出現に「怒った」立石さんは、電柱を3本に増やして「正しかことば、伝えることにしたったい」と話す。

 共生の道もある。人気まんが「サザエさん」にちなんだ地域おこしだ。

 連載は、46年に西日本新聞の前身「夕刊フクニチ」で開始。作者の長谷川町子さん(20〜92年)が東京に引っこした後も、新聞を変えて74年まで続いた。「サザエさん通り」と冠した地域おこしは、東京で始まり、今では福岡でも行われている。

 サザエさんの版権を管理する長谷川町子美術館(東京)に名前の利用を申請し、使用が認められたからだ。

 ああ、福岡人。その地元愛ゆえの行動力には、脱帽するしかない。

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