転勤者飲み込む「福岡ブラックホール」 力の源は食にあり

しょうゆだれでゴマとサバの刺し身をあえた「ゴマサバ」(写真と本文は直接関係ありません)
しょうゆだれでゴマとサバの刺し身をあえた「ゴマサバ」(写真と本文は直接関係ありません)
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威勢よく行われる福岡市鮮魚市場の初競り=2013年1月5日午前3時56分、福岡市中央区長浜
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スパイシーな熱々ソースで味付けされたカニやエビなどのシーフードをテーブルに広げて手づかみで食べる「ダンシングクラブ」=福岡市
スパイシーな熱々ソースで味付けされたカニやエビなどのシーフードをテーブルに広げて手づかみで食べる「ダンシングクラブ」=福岡市
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「福岡にはクオリティーの高い食材が集まる」と出店理由を語るミールワークスの小島由夫社長=福岡市
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ダ ミケーレ最高経営責任者のフランチェスコ・コンドウッロ氏(左)から「マエストロ」の証明書を授与される疋田さん(右)=福岡市
ダ ミケーレ最高経営責任者のフランチェスコ・コンドウッロ氏(左)から「マエストロ」の証明書を授与される疋田さん(右)=福岡市
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ナポリから運んだ石窯で疋田さんが焼いたマルゲリータ。チーズは濃厚なミルクのような味わいで、生地の焦げ目はまきの香りもした
ナポリから運んだ石窯で疋田さんが焼いたマルゲリータ。チーズは濃厚なミルクのような味わいで、生地の焦げ目はまきの香りもした
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ピザ生地の上に載せるナポリから空輸したフレッシュチーズ。「鮮度が命」という
ピザ生地の上に載せるナポリから空輸したフレッシュチーズ。「鮮度が命」という
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 福岡ではサバを刺し身で食べる。東京の人から見ると、信じられない光景かもしれない。対馬暖流に乗って豊富な魚介類が水揚げされ、野菜や青果の産地もひしめく。福岡は間違いなく“食の宝庫”と言えるだろう。その吸引力は「大阪、名古屋をもしのぐ」という欧州の飲食幹部の声もある。転勤のサラリーマンをとりこにする福岡「ブラックホール」の力の源に迫る。

 ■サバを生食するのが福岡流

 「初めて見たときは、目を疑いましたよ。福岡の人って、胃腸がおかしいんじゃないかって…」

 そう語るのは、関東出身の40代の男性会社員だ。就職で福岡に転入してきた20年ほど前。居酒屋で同僚たちが「うまい」「うまい」と口に放り込んだ「ゴマサバ」を見ると、しょうゆたれでゴマとあえた生のサバだった。

 「私は今も食べません。だって、東京では、生のサバには寄生虫がいて、食べると食中毒になるかもっていうのが常識ですから」

 実際、サバなど多くの魚の内臓に寄生する「アニサキス」は、食べて食中毒を起こすと、胃に激痛が走ったり、吐いたりする。

 ところが、福岡の「常識」は異なるようだ。その答えは、原因のアニサキスにあった。

 魚介類の寄生虫症を研究している東京大大学院農学生命科学研究科の良永知義教授(魚病学)に聞くと、「アニサキスの種類は日本海側と太平洋側で異なる」という。

 どういうことか。結論から言うと、福岡のサバは「食中毒になる確率が低い」。日本海側のアニサキスは魚の内臓から筋肉(刺し身)へ移行しにくいのだそうだ。

 アジやイワシといった他の青魚にも同じことが言えるという。福岡で青魚が「生食」されるのには、ちゃんとした生物学的な理由があったのだ。

 ■食の「地場調達率」も強みだ

 食材の「地場調達率」も福岡は東京に比べて高いようだ。

 九州最大のシンクタンク、九州経済調査協会(福岡市)の小柳真二研究主査はそんな分析を行った。

 着目したのは、中央卸売市場に集まる食材の産地だ。東京が関東一円から調達する食材は、野菜も魚介類も約4割(重量ベース、2015年)。これに対し、福岡が九州一円から調達する食材はいずれも6割(同)を超えていた。「隣県にも産地を抱えていることが強みになっている」と、小柳氏はみる。食材を近場で調達できれば、鮮度が良く、輸送コストも安くすむからだ。

 そんな地の利に魅せられて、シーフード料理を手づかみで食べるシンガポール発のレストラン「ダンシングクラブ」が16年10月、キャナルシティ博多(福岡市)に出店した。

 東京、大阪に続く国内3店舗目で、人気歌舞伎俳優の市川海老蔵さんも訪れて話題になった。

 訪日外国人客の人気スポットでインバウンド需要が期待できるが、狙いは別にあった。

 運営する飲食店経営ミールワークス(東京)の小島由夫社長は「福岡に集まる食材のクオリティーの高さと価格の安さにひかれた。ここを東京や大阪への食材供給基地にしたい」と語る。

 思惑通り、福岡のワタリガニや長崎のサザエ、熊本のクルマエビなど九州産の魚介類セットがヒット。東京でも「予想以上の売れ行き」(広報)という。

(手づかみで食べるカニやエビなどのシーフード料理)

■ナポリ名店も絶賛する実力

 そんな福岡をイタリア人男性2人が訪れたのは、15年2月のことだった。アレッサンドロ・コンドゥッロ氏とリッカルド・ドゥルソ氏。

 ナポリで150年近い歴史がある有名なピザ店「アンティーカ ピッツェリア ダ ミケーレ」の取締役とインターナショナルマーケティングマネジャーだ。

 東京に次ぐ国内2号店を出そうと、名古屋、京都、大阪を視察し、福岡へ足を伸ばした。

 タイやイサキ、タコ、エビ、イカ…。パスタやカルパッチョに使う魚介類の豊富さや鮮度、価格の安さはどれも高い評価を得た。市内の飲食店にも入って、料理のレベルの高さを確認。「食材の良さ」を裏付ける根拠になった。

 さらに、空港へのアクセスが決定打となったようだ。ナポリから空輸するフレッシュチーズは鮮度が命。福岡空港から市中心部までは、車で約30分しかかからない。

 「ミケーレのコンセプトに合う街だ」

 「将来的にもっと可能性が広がるロケーションだ」

 2人は福岡を出店地に選び、同年10月にオープンさせた。

 実際の出店や運営は、フランチャイズ(FC)契約を結ぶ飲食店経営バルニバービ(大阪市)が担う。東京店から福岡店に移ってピザを焼く同社の疋田将也さん(29)はナポリのミケーレ本店で修業し、その味を忠実に再現。経営一族以外では初めて「ディプロマ」と呼ばれるピザ職人を指導できる「マエストロ」の資格まで取得した“免許皆伝”の人物だ。

 「九州には縁もゆかりもない」という山梨県出身の疋田さんは、福岡に移って1年半。しみじみ思うのは「ここは料理人をひきつける街」ということ。

 「新鮮な魚介類が東京の半値近くで手に入る。いい料理を安く提供できる」

 豚骨ラーメンも「大好物になった」と語り、すっかり福岡がお気に入りの様子。ブラックホールに吸引された1人と言えるかもしれない。

(疋田さんがつくるマルゲリータ。イタリアから空輸したフレッシュチーズを生地に載せる)

(ナポリから運び込んだ石窯で焼くマルゲリータ)

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