「場がしらける」福岡ではやってはいけない“タブー” 転勤者のミスを誘う宴席のワナ

博多での締めは、いつも博多手一本
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700年以上の歴史がある博多祇園山笠=2016年7月15日、福岡市博多区
700年以上の歴史がある博多祇園山笠=2016年7月15日、福岡市博多区
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博多手一本の見本を見せてくれた博多祇園山笠振興会の川口俊二事務局長=福岡市博多区
博多手一本の見本を見せてくれた博多祇園山笠振興会の川口俊二事務局長=福岡市博多区
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千代流の当番法被(長法被)を着て櫛田神社に立つ川口さん。「10年ほど前の写真」という=川口さん提供
千代流の当番法被(長法被)を着て櫛田神社に立つ川口さん。「10年ほど前の写真」という=川口さん提供
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 福岡ではやってはいけない“タブー”がある。宴席の締めにたたく「博多手一本」には独特の間があり、全国的な一本締めに慣れた人のミスを誘う。みんなで歌う「祝いめでた」も斉唱するタイミングがある。間違えても「仕事や取引には影響せんよ」(地場経営者)と言いながら、「場がしらける」(別の経営者)との証言もあるため、転勤や就職で福岡市に転入した後は、極力覚えた方がよさそうだ。

■失敗に失敗を重ねる

 福岡市内の夜の歓楽街。一人の新入社員を迎えたある職場の歓迎会が行われていた。

 「もう楽しい人が入ってくれてよか〜。これから頼むよ」。上司の中年男性が若い新人男性の手を両手で包んだ後、背中をぽんとたたいて期待を込めた。

 ところが、この後、優しい上司の表情が一変することになる。

 宴席を締めくくる博多手一本に移行したときのことだ。上司の音頭で、職場のみんなが手拍子を打った。

 よーお(パン、パン)
 もひとつ(パン、パン)
 祝(いお)うて三度(パ、パン、パン)

 その時だ。パン…と、最後に1回、余計な手拍子が響いた。新人だった。関東出身で一本締めに慣れていたせいか、最後に「パ、パ、パン、パン」と手拍子を4回たたいたのだった。

 博多手一本の最後の手拍子は3回。この独特の「間」を読めず、福岡に転入してきた多くの市外者たちが“ワナ”にはまってしまう。

 失敗を取り繕おうとした男性は、さらなる失敗を招いてしまう。次の発言だ。

 「あの、もう一度やらせてください…」

 上司が険しい表情になって言った。

 「博多手一本は、やり直しがきかんったい」

 二度繰り返すのは「縁起が悪い」とされている。

■福岡の象徴的シーン

 この場面は、「博多手一本に、やり直しはない」という題名の動画作品だ。福岡フィルムコミッション(FC)が主催した都市PR企画(福岡ワンミニット・フィルム・コンペティション)で、2013年の優秀作品賞を受賞した。

「博多手一本に、やり直しはない」(監督・古野翼)


 脚本を担当した新聞社勤務の男性(ペンネーム・げこげこ大王28世)は、これまで何度も目撃してきたという博多手一本のミスの場面を、「福岡の象徴的なシーンとして作品にした」と語る。

 「支店経済」とされる福岡市には、九州支店や福岡営業所など大手企業の出先がひしめく。

 ある支店長は「着任した3年前、前任者から引き継ぎの飲み会でいきなり博多手一本をやらされて失敗し、みんなに注目された。私も後任に同じことをしたい」と打ち明ける。恥をかいた分、「習得も早かった」らしい。

 福岡の歴史や習慣を解説する「福博講座」の講師、斉藤寛さん(51)=三好不動産経営企画課長=は「支店長クラスなどエグゼクティブ層は博多手一本の前に歌う『博多祝い唄(祝いめでた)』のサビも覚えた方がいい」と助言する。

■上役のメンツを汚す

 福岡のこうした風習は、伝統の夏祭り「博多祇園山笠」に由来している。

 転入早々、タブーに触れたくない。何に気をつけたらいいのか、博多祇園山笠振興会の川口俊二事務局長(67)を訪ねて、教えてもらった。

 「小学1年生の時から山笠に参加している」という川口さん。福岡で行われる宴席は「博多手一本で締めるよう」提言しているという。支店長たちの集まりでよく行われる関東の一本締めを「ちょっと待ってください」と制止するほどだ。

 しかし、そんな川口さんも、東京では一本締めや三本締めをこなす。「郷に入っては郷に従え」なのだ。

 博多手一本が終わった後は、「異論を唱えない」「拍手をしない」ことが作法だ。拍手をしたら、せっかくの締めが「台無しになる」からだ。

 さらに、「異議なし」の意味もあり、約束事の確認や、もめ事にけじめをつけるときにも用いる。手一本の後に「さっきの話ばってん(だけど)…」などと話を蒸し返すのは、「音頭を取る上役のメンツを汚すことになるったい」。

川口さんが見本を見せてくれた博多手一本


 「祝いめでた」にも作法がある。第一小節は音頭取りとなるリーダーが歌う。手拍子を交えてみんなで歌うのは第二小節からだ。

 川口さんは「節回しも是非覚えていただきたい」と注文する。

 福岡市内で行われたある結婚式。3番まである祝いめでたの1番を川口さんが歌い、2番を新郎側の参加者が歌ったときのことだ。歌詞カードを用意していたまでは良かったが、節回しがダンチョネ節(神奈川県)だったという。

 「アメリカ合衆国の国歌ば歌われたかと思いました」と川口さん。間髪入れず、「もちろん冗談です」と笑った。(分かってます)

博多祇園山笠振興会による博多祝いうた(祝いめでた)と博多手一本


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 同じ福岡県でも北九州市出身の記者には「博多手一本」も「祝いめでた」もなじみがなく、よく間違えたものだ。

 就職して福岡市に転入した20年以上前、福岡県庁の廊下を法被に締め込み姿で尻をぷりぷり出して歩く男衆を目の当たりにして、目をうたぐった。

 川口さんに聞くと、山笠に七つある「流れ」のうち、県庁が町内にある「千代流」が知事に表敬訪問をしたときのことだろうと説明する。川口さんも千代流に所属している。

 山笠期間中(7月1〜15日)は「断ちごと」と呼ばれるタブーがあり、関係者はキュウリを食べてはいけない▽女性と接触しない「女人断ち」▽舁(か)き山や飾り山の人形に武田信玄は飾らない−などの“ルール”を守ることになる。武田信玄は江戸時代にけんかや火事があって敬遠されているといい、700年以上続く山笠の歴史の深さを物語る。

 私も、取材を依頼する電話で、タブーに触れてしまった。祭を奉納する櫛田神社(福岡市博多区)で千代流の法被を着て写真を撮らせてほしいと川口さんにお願いしたところ、「毎年6月1日の解禁までそでを通せましぇん」。福岡の流儀を習得するには、任期の長さよりも、地元との関わりが大切だ。

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