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ワインカフェの名物はみそラーメン 人気の中華店跡の新ビルで開業 父と亡き母の思い、娘が実現

「キッチン きく茶」で一押しは「みそラーメンセット」(ミニチャーハン付き)とグラスワイン(赤)。実際に試すと、ビールに負けないほどワインとみそラーメンの相性の良さを感じる
「キッチン きく茶」で一押しは「みそラーメンセット」(ミニチャーハン付き)とグラスワイン(赤)。実際に試すと、ビールに負けないほどワインとみそラーメンの相性の良さを感じる
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「キッチン きく茶」代表の金澤きくよさん(左)と父・広次さん。パステルカラーで統一した内装で女性好みの店構えだが、きくよさんは「ワインと中華好きな男性も大歓迎」
「キッチン きく茶」代表の金澤きくよさん(左)と父・広次さん。パステルカラーで統一した内装で女性好みの店構えだが、きくよさんは「ワインと中華好きな男性も大歓迎」
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「中華しんちゃん」の店舗跡に完成した「H&Sホームビル」。ビル名は金澤広次(ひろじ)さんと亡き妻・澄代(すみよ)さんのイニシャルから命名された=福岡市中央区今泉
「中華しんちゃん」の店舗跡に完成した「H&Sホームビル」。ビル名は金澤広次(ひろじ)さんと亡き妻・澄代(すみよ)さんのイニシャルから命名された=福岡市中央区今泉
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 福岡市・天神界隈。若者に人気の今泉地区にある真新しいビルの5階に、そのワインカフェはある。店内はパステルカラーに統一され、小さな鉢植えの観葉植物が並ぶ。いかにも女性好みの店構えで、フレンチやイタリアンのおしゃれなメニューを想像させる。しかし、看板メニューはみそラーメンなのだ。

 実はここに至るまでに、店には長いストーリーがある。3年前まで、この地には「中華しんちゃん」という店があった。現在の店主、金澤きくよさん(44)の父、広次(ひろじ)さん(75)が経営。天神で働くサラリーマンらで昼夜にぎわい、「今泉のオアシス」として親しまれた。その一番人気がみそラーメンだった。

 濃厚で少し甘口のみそスープにストレートの太麺が沈み、豚挽肉、モヤシ、タマネギを炒めた具材をたっぷりトッピング。箸先で引き上げた麺の束に具材を絡ませると、かすかにショウガの風味がする。私も、このさっぱりした味わいのとりこになった常連の一人だった。

 店は1973年に京都で創業し、79年に福岡に移った。市内で移転を繰り返した後、今泉の2階建て中古物件を購入。繁盛したものの、広次さんは持病の腰痛に苦しみ、2010年2月には、妻・澄代さんが病気で他界(享年59歳)してしまう。心痛で一時休業。周囲の励ましで再開したが、腰痛の悪化で14年3月、のれんを下ろした―。

 閉店が決まると、常連客には“しんちゃんロス”が広がった。「しんちゃん抜きの昼食なんてあり得ない」「最後の日は腹がパンクしてもみそラーメンと中華丼を食べる」…。ブログやSNSには嘆く声が渦巻いた。

 広次さんは土地・建物の売却も検討したが、店舗跡へのビル建設を決断。閉店2年後の16年3月に完成した。ビルは広次さんが夫婦のイニシャルから「H&Sホームビル」と命名。最上階でカフェの経営を思い立ち、きくよさんが引き受けたという。

 彼女はIT業界で働いていたが、澄代さんが亡くなる1年前から店を手伝うようになっていた。当時は澄代さんから「店を引き継いでほしい」と請われて嫌がっていたものの、今では「営業企画がとにかく面白い」と言う。接客の奥深さ、晩酌セットなどのメニュー開発は「ユーザー目線で商品開発するIT業界にも通じる」と感じている。

 カフェは16年11月にオープン。当初の店名は「CopainCopine(コパンコピーヌ)」。仏語の「男友達」「女友達」を重ねて「友達」を意味する造語だ。調理担当の男性スタッフを雇い、ワインに合う料理としてキッシュやカプレーゼ、ローストビーフなどを提供していた。

 しかし、男性が今年6月に退職。調理スタッフが抜けた穴をどう埋めるか思案していた時に、救いの手を差し伸べたのが広次さんだった。腰痛の治療に専念したことから、長時間でなければ厨房に立てるようになっていたのだ。

 そこで復活したのが、みそラーメン。「私はただの手伝い。だから作るのはみそラーメンとチャーハンくらい。ここは娘の店。それ以上作ったら『しんちゃん』になってしまうから」。広次さんはそう語る。

 ラーメン復活の噂は口コミで広がりつつある。「昔の常連さんの多くは、店内を眺めて『本当にあると?』と半信半疑。でも、父が厨房から顔を出すとすごく喜んでくれる」と、きくよさん。「二度と食べられないと諦めた一杯にまた会えた。今年最大のニュースだ」と泣きそうな顔でラーメンをすする客もいるという。
 
 もともと、中華からカフェに転換したのは、広次さんが澄代さんから聞いた言葉がきっかけだった。「中華で1・2階を使うのは大変。2階は私がカフェでもやるから、中華は1階だけにしましょう」と言っていたそうだ。「私に無理をさせまいという思いからでしょうが、カフェを開くのは妻の遺志だった。亡くした後、実現してみたくなりまして」と広次さんは明かしてくれた。

 きくよさんは、この10月に店名を変更した。今の店名は「キッチン きく茶」。自分の名前に、中華の「飲茶」を合わせた。そこには中華一筋だった父と、支え続けた母への感謝が込められている。

 「みそラーメンや中華料理って、実はワインに合うんです。これからは気取らず、気軽に食事を楽しめる“オアシス”にしたい」
 
 中華とカフェ。父と母の思いを受け継いだきくよさん。彼女は今、ソムリエを目指して資格取得の勉強に励み、父からみそラーメンの作り方を学んでいる。

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