過労死、過労自殺 止まらず 長時間労働の実態も浮き彫り 【生きる働く】過労死等防止対策白書から<上>

グラフ(1)
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 政府は、過労死の実態をまとめた初めての「過労死等防止対策白書」を10月に公表した。過労死ラインとされる月80時間を超えて残業をした正社員がいる企業が約23%に上るなど、長時間労働が解消されない実態が改めて浮き彫りになっている。内容を2回に分けて紹介する。

 2015年度の過労死、過労自殺(未遂含む)の労災認定はそれぞれ96件と93件。1999年度からの推移をみると、過労死は近年は微減傾向だが、過労自殺は増加傾向なことが分かる=グラフ(1)

 ただしこれは過労で死亡した人のうち、勤務実態などの証拠がそろい、労働基準監督署に労災認定された事例に限った話だ。

 グラフ(2)は死亡に至らなかったケースも含めた労災申請数と労災認定件数を示している。これをみると、過重労働による脳・心臓疾患の労災申請数は高い水準が続いていることが分かる。目を引くのは、うつ病などの精神疾患にかかり労災申請した人の数が、毎年のように過去最多を更新していることだ。15年度の申請数1515件は1999年度のほぼ10倍だ。

 背景には、労働者側に精神疾患が労災の対象になるとの認識が広がった事情があるとみられるが、労働問題に詳しい光永享央(たかひろ)弁護士(福岡)は「精神科医療を受診する抵抗感が和らぎ、潜在していた被害者が声を上げるようになったからだ」と指摘する。

 白書では警察庁のデータとして、勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者が昨年、2159人に上ったことも報告している。実態はさらに深刻と考えるべきだろう。

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 白書には、厚生労働省が外部委託し、企業約1万社(回答1743件)、労働者約2万人(回答1万9583件)を対象に実施したアンケート結果も盛り込まれた。それによると正社員の残業時間が最も長かった月が「80時間超100時間以下」と回答した企業は全体の10・8%、「100時間超」が11・9%で、日本企業の残業の常態化が明らかになっている。

 月平均の残業時間について、昨年度に労災認定された事例をみると、過労死(96件)の場合は大半が月80時間以上だった。

 過労自殺(93件)の残業時間はさまざまで、40時間未満も14件あったが、100時間以上という事例が過半を占め、160時間以上も18件に上った。原因となった主な出来事は「仕事内容や量の変化」が26件、月160時間を超える長時間労働やセクハラ行為など「特別な出来事」が17件、「嫌がらせ、いじめ、暴行」が8件の順で多かった。

 長時間労働がなくならなければ過労死ゼロの実現は難しい。労使合意があれば事実上残業が無制限になる制度(労働基準法の労使協定・三六(サブロク)協定)の早急な見直しが望まれている。

 ●メモ

 2014年に成立した過労死等防止対策推進法は過労死対策を国の「責務」と明記。過労死を取り巻く現状や政府の対策の年次報告を義務付けている。「過労死等防止対策白書」はこの定めに基づきまとめられた。法律は、深刻な健康被害が残るケースも含めて「過労死等」と定義する。

 一般には、過重労働による脳内出血や心筋梗塞など脳・心臓疾患を原因とする死亡が「過労死」。仕事上のストレスによって発症した、うつ病などの精神疾患を原因とする自殺が「過労自殺」と呼ばれている。

 過労死の労災認定は、直前1カ月の残業が100時間を超えるか、2~6カ月前の残業が月80時間を超えていたかなどを基準に、総合的に判断される。


=2016/11/18付 西日本新聞朝刊=

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