一人一人の尊重が平等に 【第16部】誰もが輝く国へ ノルウェー・リポート<5完>

ノルウェー政府でソフトウエア管理などを手がける中本明美さん
ノルウェー政府でソフトウエア管理などを手がける中本明美さん
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毎年12月にノーベル平和賞の授賞式が行われるオスロ市庁舎ホール。壁画には第2次大戦中のナチス・ドイツによる占領など、ノルウェーの歴史が描かれている
毎年12月にノーベル平和賞の授賞式が行われるオスロ市庁舎ホール。壁画には第2次大戦中のナチス・ドイツによる占領など、ノルウェーの歴史が描かれている
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 ノルウェーの「弁当」って、どんな感じなのだろう。滞在先のホテルが用意してくれた包みをワクワクしながら開くと-。薄いハムとチーズを挟んだ握り拳大のパン二つと、オレンジ二つが入っていた。

 「子どもに持たせるお弁当も似たようなもの。共働きで時間がないですから」。首都オスロ在住歴39年の通訳ガイド克美・チェルナスさん(69)は話す。日本では、アニメキャラクターなどをかたどった「キャラ弁」を作るために早起きする親もいる。だが仕事もしながら手の込んだ弁当や食事まで作るのが理想とされては、働くお母さんは参ってしまうだろう。

 2015年版の国連人間開発報告書によると、日本も共働き世帯が増えてきたが、労働参加率は男性70・4%、女性48・8%。家事や子育ての負担が女性に偏っていることが大きい。

 00年からオスロで暮らす政府経営管理局上級顧問の中本明美さん(43)は、仕事も家庭も「完璧」を追求する日本人の姿勢がまた、女性の活躍を阻んでいると指摘する。「常に最高水準を目指して頑張るからこそ技術や社員のモラルは世界一。でもそれが長時間労働につながっているからです」

 ノルウェー人が追求するのは「god nok(ゴッド・ノック=十分)」。「必要以上に頑張るのではなく、必要条件を満たせばそれがゴール」。そうして暮らしを楽しむ。

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 ノルウェーの労働参加率は男性68・7%、女性61・2%。日本の経団連に当たる経営者連盟(NHO)会長も女性で、経済界でも女性が活躍している。しかしさまざまな取材先で同じ言葉を聞いた。「私たちの男女平等にはまだ課題がある。組織のトップや重役などの女性リーダーが少ないことです」

 そこでNHOが03年に始めたのが、女性リーダーの育成プログラムだ。企業から推薦された役員候補の女性が、経営管理に必要なリーダーシップや法律、財務などの知識を約1年にわたって学ぶ。参加費3万クローネ(約42万円)は企業が負担する。

 政府も対策に着手し、上場企業の取締役会にクオータ制を導入、片方の性別の役員が4割を下回らないよう法律で定めた。上場をやめて規制を逃れようとする会社もあったが、08年までには「女性役員4割」を達成した。NHOの育成プログラム担当者はそれでも「非上場企業の女性役員はまだ15~20%だけ。男女間の給与格差も残っています」と危機感をにじませる。

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 それにしてもなぜ、ここまで「男女五分五分」を目指すのだろう。中本さんが一つのヒントとしてある歌を教えてくれた。現地の保育園でよく歌われる曲で、当時2歳だった娘に習ったという。

 ♪あなたはこの世で唯一の存在/誰一人あなたと同じ人はいない/あなたは才能豊かで、皆にいろんなことを教えてくれる/あなたに出会えてよかった/あなたが生きていてよかった

 男性、女性である以前に、誰もが同じだけ存在価値のある社会の一員で、その一人一人が活躍できる環境をつくっていく。税負担が重くても、子育てしやすく安心して年を取れる高福祉社会。それがノルウェーの人々が選んできた国のかたちだ。

 政府が国民から預かったお金をきちんと暮らしに還元すれば、税金は高くても支持は得られる。ノルウェーの試みが指し示すそうした事実は、この国を「理想郷」とするかは別として、もっと重要視されていい。

 欧州各国に比べれば、日本の税負担は軽い。少子高齢化で社会保障費は膨らみ、あちこちに制度のほころびも目立ってきた。では、これからどんな社会をつくり、子どもたちに引き継ぐか。この国の未来は、私たちで選べる。

 =おわり


=2017/01/11付 西日本新聞朝刊=

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