西日本新聞電子版 1周年記念プレゼント

81歳ヘルパー「今が天国よ」 【第17部】「老後」と呼ばないで<1>

身長150センチの小さな体で動き回るトキちゃん。「料理は段取り!」と、何品ものおかずを同時に仕上げた
身長150センチの小さな体で動き回るトキちゃん。「料理は段取り!」と、何品ものおかずを同時に仕上げた
写真を見る

 むんと熱気が漂うバス停に、嵐旬世(あらしときよ)さん=北九州市=はさっそうと降り立った。81歳、現役の訪問介護員(ホームヘルパー)だ。

 午後1時きっかりに玄関の呼び鈴を押す。1人暮らしの雄三さん(90)=仮名=が顔を出した。「長生きするもんじゃない。帯状疱疹(ほうしん)が痛うてよ」。いつものあいさつらしい。週3日、食事を用意するのが嵐さんの仕事。勤務は午前と午後に1時間ずつ。この日も2度目の訪問だった。

 食卓には朝ご飯が並んだまま。「まー、こんなの初めて。新聞が忙しかったのかな。いつも『読む前に食べてくださいね』って言うんだけれど」。雄三さんは、温め直しを断って箸を取った。いちごジャムのトーストが1枚半、半熟目玉焼きにハム、トマト、海草類を添えて、煮豆、フルーツ、ヨーグルト、牛乳。これくらいの量はペロリなのだそう。

 嵐さんの料理で何が好きですか。「何でんおいしいよ。ホテルのよりこっちがおいしい」。雄三さん、べた褒めだ。

 嵐さんは両親の介護をきっかけにヘルパーの資格を取り、65歳で「北九州福祉サービス」(同市)に入った。今は年下も含め3人を担当する。月水木金と働いて実質は週8時間。昼寝したり、帰りに美術館へ寄ったりできる。

 「それと、理容師も週2日してるの」。こちらは朝8時から夕方4時。かつて経営していたカットサロンを弟が継いでいて、手伝いに行く。二十(はたち)のころからのお客もいて楽しくて仕方ない。

 休日は水泳クラブで水中エアロビクスやウオーキング。クロールだって500メートルいけるけど、近ごろは控えている。「八十肩じゃなく四十肩だって、お医者さんが言うのよ。あはは」

    *     *

 嵐さんは9歳で終戦を迎えた。もし原爆が小倉に落ちていたら、命はなかったかもしれない。6人きょうだいの一番上。高校のとき父親が倒れて泣く泣く理容師に。家族と住み込みの従業員も抱え、人の倍働いた。「自分の夢なんて考えない時代。生きるのに一生懸命で、嫌になる暇もなかった」

 もうゆっくりしたいと思わないの? 「十分ゆっくりよ。昔の10分の1しか働いていないもの。せっかく元気なんだから、してもらうよりしてあげたい。ちょっとでも人の役に立てるって、うれしいじゃない。今が天国よ」。好きなことを好きなだけ。実に楽しそう。

 先日スマートフォンを買った。「いざ仕事で必要になっても困らないように」と、無料通信アプリLINE(ライン)にも挑む。

 嵐さん、いつまで働くんですか。「朝起きて、今日は行きたくないなーって思うときまでかな」

    ◆     ◆

 平均寿命が80歳を超える日本。65歳で退職したとしても余生は長く、仕事を続ける人が増えている。少子高齢化が進み、世の中で生涯現役が期待される今、シニアはどんな働き方をしているのか。「老後」を蹴散らして、生き生きと働く人々を追った。

 ▼働くシニア 総務省の労働力調査(2016年)によると、65~69歳で働いている人は男性の2人に1人、女性の3人に1人に上る。65歳以上の就業者数は過去最多の767万人で、働く人全体の1割以上を占めている。

 労働政策研究・研修機構が60代の働く理由を調査(15年)したところ、「経済上の理由」が最も多く、男性約64%、女性52%だった。次に多い「生きがい、社会参加のため」は男性約9%、女性約17%で、「頼まれたから」「時間に余裕がある」「健康に良い」などが続いた。

 また内閣府の調査では、60歳以上の就業者の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と答え、70~80歳くらいまで働きたいという人も4割近くいた。


=2017/08/08付 西日本新聞朝刊=

→電子版1周年記念!1万円分賞品券やQUOカードが当たる!!

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]