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配慮一つで人材は輝く 【第17部】「老後」と呼ばないで<4>

立ち姿が若手のお手本になっている豊さん。「背筋と膝をぴしゃっと伸ばさんと、老人に見えるからね」
立ち姿が若手のお手本になっている豊さん。「背筋と膝をぴしゃっと伸ばさんと、老人に見えるからね」
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 72歳の警備員デビューだった。求人誌、ハローワーク、シルバー人材センターでも駄目で、福岡県70歳現役応援センター(県内4カ所)でようやく紹介してもらえた仕事。家族は体力を心配したけれど「もう、喜び勇んでね」。3年目に入った今も、豊さん(75)=仮名、久留米市=は制服にパリッとアイロンをかけ、勤務中はヘルメットをかぶるのに、髪をぴしゃっとなでつけて臨む。

 旧国鉄時代から車掌を勤め上げて55歳で定年。高速道路の料金所に再就職し65歳で定年。継続雇用は70歳で途切れた。「しがらみとか時間に縛られなくなって、ゆっくりできると思ったけど。2カ月で駄目だったです」

 朝は何時に起きてもいい。昼食の後、何をしようかと考えるうちに夕方近くに。もう明日にするか、とのんべんだらり。「俺は何のためにこうしよるんか。体は動くし、老人って言われるのは嫌。もう一度社会に出て、あれしてみたい」と、また職を探した。

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 豊さんが勤める新日本警備保障(久留米市)は従業員の2割近くが65歳以上で、1日8時間、体調を見ながら週2~5日働く。健康診断と認知症の検査は毎年受ける決まりで、自称「小うるさいお母ちゃん」の所長・花田秀幸子(ひさこ)さん(51)が厳しく管理している。

 「ちょっと、血圧165もあるやないね」「間違いたい。温泉でいつも120やけん」「いーや、すぐ再検査に行きなさい」

 顔色の変化一つも見逃さないから、人工透析に週3回通う75歳も現場に立てる。

 シニアの新人は、教育するのも一苦労ではある。交通誘導の無線機を使うとき、両手に紅白の旗を握り締め、応答ボタンを押せない人もいる。ボタンを押しても「何て言うんやったっけ」。法律で義務付けられた新任教育は30時間以上だが、一進一退で100時間を超えた人もいた。

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 シニアは健康状態も能力も、個人差が大きい。大変な思いをして雇うのはなぜ? 「警備員はきつくて給料もあまり良くない。正直なところ若者があまり来てくれないってのはあります」と花田さん。それでも、高度成長期を支えてきたシニア世代は仕事に対する意識が高く、活用しないのはもったいないという。「少し配慮をすれば60、70の手習いでもすごくいい人材。人材がうちの宝なんです」

 7月5日、朝倉市などで豪雨が発生。花田さんの部下4人が工事現場に取り残され、車中泊を強いられた。「薬が必要な人だったらどうなっていたか」。今後はそんな点にも配慮した人員配置が必要だと気づかされた。

 豊さん、72歳の再就職で意識してきたことは? 「まずは健康。あとは何かな、謙虚、じゃないですか」。いくつ年下であろうが、1年でも先輩は先輩、という姿勢が大切という。「ぼけっとしとったら、いろんなところに迷惑を掛ける。働けることに感謝感謝で、体力の持つ限りやります」

 いつ仕事依頼の電話が鳴ってもいいよう、常に備える。今晩も洗面台にスマートフォンを置いて、風呂に入ろう。

 ▼年金 自営業者や学生などが加入する(1)国民年金(基礎年金)と、会社員や公務員が加入する(2)厚生年金がある。受給に必要な保険料の納付期間は法改正で今月から、25年が10年に短縮され、受け取りやすくなった。

 保険料を40年間、満額納めて65歳から受給すると、(2)は月平均で約15万6000円(基礎年金含む)、(1)は約6万5000円(17年度)。しかし納付期間が短い人や、受給を早めた人は減額される。実際、(1)の平均受給額は約5万4000円(15年度)で生活保護の水準に届かない。

 また、(2)は給与に応じて保険料が決まるため、低賃金の非正規雇用は受給額も少なくなる。現在、非正規雇用は労働者の約4割にも上り、働かざるを得ないシニアはさらに増えそうだ。


=2017/08/11付 西日本新聞朝刊=

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