育児、介護が変える「ベストな仕事」【第18部】転職という選択<2>

革製品の店「ビジネスレザーファクトリー福岡天神店」で働く高宮健さん
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 生後4カ月の娘を抱っこしてお風呂に入れる。髪を洗うと気持ちよさそうにニコニコ。福岡市の高宮健さん(39)はこの「至福の時」を転職で手に入れた。

 大卒後アパレルメーカーに入り、長く店長を務めた。「反応がじかに伝わる」接客にはやりがいを感じた。でも残業は月に50時間はあり、閉店後も在庫管理で日付が変わるまで働くことが度々。3年前に結婚すると「子どもが生まれても寝顔を見るだけか」と働き方に疑問を持つようになる。

 「子どもが生まれるのに?と言われるかもしれないけど、自分にとっては子どもが生まれるから、なんです」。妻の妊娠を契機にした決断。家族との時間を持てる勤め先、これが譲れない条件だった。

 今の会社は無駄な残業はしない方針で、責任者となった革製品を扱う店舗も「(当日の売り上げを計算する)レジ締め作業は15分間」とスケジュールを明確にしている。毎日、閉店時間からきっかり30分後に帰途に就く。

 子どもが生まれた男性社員が2カ月間、週休3~4日で働ける社内の制度は入社翌月の7月から利用できた。収入は前職とほぼ変わらない。「キャリアとプライベートの未来、両方描けますね」。日に日に重くなるわが子を、その手で感じている。

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 将来の昇給や出世が保証されない低成長時代。転職にあたっても、給与水準にはそこまでこだわらず「自分の生活に合った働き方」を求めて新たな職場を選ぶ人が珍しくなくなった。

 2012年の国の調査では働きながら家族の介護を担う人は291万人に上る。少子高齢化の中、育児以外にも、さまざまな事情を抱える人が増えている。

 企業も変わった。人材難の世の中、時間や場所に制約がある人材を自社に引きつけ、働き続けてもらわなければ、成長力は確実にそがれることになる。

 「自分の事情を伝え、労働条件を交渉しようとする人も増えています」。転職サイト、リクナビNEXT編集長の藤井薫さんは、こうした転職を「ライフフィット転職」と名付けた。団塊の世代全員が後期高齢者になるのは2025年。「この傾向はますます強まる」と予測する。

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 作業着に長靴で現場を走り回る建築土木会社の営業から、ジャケットにスカート姿の不動産会社の秘書に。岩田舞さん(38)=仮名=は6年前の転職で、岡山県から故郷福岡に戻ってきた。きっかけは父親の胃がん。「趣味の登山を死ぬまで続けたい」。そう言って手術を断った父のそばにいたいと願った。

 就職で地元を離れた人にとっては介護・看護=Uターン転職。福岡市の人材紹介会社「ACR」によると、最近は求職者の2割近くが、こうした地方移住型の転職を希望している。

 岩田さんは母と分担して看病を続けた。時間に融通が利く職場を求め、生命保険会社、人材開発会社とさらに2度、勤め先を変えている。

 5月、自宅で父をみとった。「もっとこうしてあげたかった、という後悔が全然ない。(福岡に)戻ったからこそです」

 Uターン後に知り合った会社員の夫(40)には今年、鹿児島転勤の辞令が出た。夫婦で一緒に暮らしたい-。夫は7月、転勤がない地域限定職が用意された会社に転職した。「家族や人生に合わせてベストな仕事を選ぶ。自然な選択ですよね」。岩田さんはそう考えている。 


=2017/09/13付 西日本新聞朝刊=

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