「介護をやめる」という選択肢【第19部】 提言 これからのハタラク<3>和気 美枝さん

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 ●一般社団法人介護離職防止対策促進機構代表理事 和気 美枝さん

 親などの介護を理由に勤めていた会社を辞める「介護離職」。その数は年間10万人を超えるといわれています。介護者の不幸は、選択肢が見えなくなること。目の前の事象にパニックになってしまい、「会社を辞めるしかない」と思い込んで、離職してしまうのです。介護が始まると、介護する相手(要介護者)を優先して考えがちですが、自分の人生を最優先で考えて構わない。今までと同じように、自分の人生は自分で選択できるのです。

 《総務省の就業構造基本調査(2012年)によると、07~12年の5年間で、「介護・看護」を理由に離職した人は約48万7千人。政府は15年に20年代初頭までの「介護離職ゼロ」を目標に掲げたが、道のりは険しい。東京商工リサーチが昨年、全国の企業に実施したアンケートでは、約7400社の1割が1年以内に介護離職者が出たと回答。7割の企業が、将来的に介護離職が増えると予想している》

 マンションの開発会社で働いていた32歳のとき、母がうつ病、ついで認知症を発症しました。煩雑な役所の手続き、専門用語…分からないことばかりで、周りも助けてくれない。自暴自棄になり、「一度リセットしよう」と38歳で仕事を辞めました。でも、楽になったのは一瞬。介護は終わらないのです。気付けば、無職で無収入、社会から置き去りにされた独りぼっちの自分がいました。

 もちろん、「親の介護に専念したい」というのもいいでしょう。ただ、「介護をやめる」選択肢があることを覚えていてほしい。施設に入れることを後ろめたく思う必要はありません。自宅にこもって、要介護者と24時間向き合う状態は避けるべきです。介護疲れの果てに命を奪ってしまう悲劇は後を絶ちません。

 私自身、ぎりぎりのところで踏みとどまった経験があります。薬を飲もうとしない母の口に、薬とペットボトルの水、キウイを押し込んでしまった。私が母を殺さずにすんだのは、どこに助けを求めればいいか分かっていたし、支えてくれる人がいたから。介護者が集まる会には、悩みに耳を傾けてくれる人もいるし、介護の情報やノウハウもたくさんあります。

 《厚生労働省が介護離職した人を対象に12年に行った調査では、離職の理由は「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」が最も多く、5割強が「離職せずに仕事を続けたかった」と回答している。国は仕事と介護の両立を目指し、介護休業を分割して取れるようにするなど、育児・介護休業法を1月に改正した》

 働く介護者の中心は40代から50代で、会社で要職を担っている人も少なくありません。企業は介護離職によって貴重な人材を失うわけですから、仕事と介護の両立を支援することは、大事な経営戦略です。

 まず大切なのは、介護していることをカミングアウトしやすい職場の雰囲気づくり。介護をテーマにしたセミナーを開く、社内に相談窓口を設ける、在宅勤務制度など働きやすい環境を整えるのも有効です。さらには、社内にいる介護者の経験や知恵を財産と捉えてほしい。介護初心者のサポート役にして人事考課の対象とするなど、評価する方法もあります。

 働く側は両立のために、(1)会社に報告して働き方を相談する(2)介護者仲間をつくる(3)定期的にストレスを発散する‐の3点が重要です。共通しているのは、「介護していることを声に出して言う」こと。介護者は誰からも守ってもらえません。自分の意思は自分の言葉で伝えなければならないのです。

 大切な人の介護が必要になる場面は、いつ、誰にでもあり得ます。介護をしながら働くことが当たり前の社会になるよう、啓発を続けていきます。(新西ましほ)

 ▼わき・みえ 77歳になる認知症の母を自宅で介護しながら働く。介護者の集いを主宰し、企業向けセミナーや講演活動も行う。46歳。


=2017/09/28付 西日本新聞朝刊=

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