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就職は一つのステップにすぎない【第19部】 提言 これからのハタラク<4> 白井 章詞さん

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 ●長崎大多文化社会学部准教授 白井章詞さん

 現在の就職活動はかつてない「超短期戦」です。3月に解禁し6月選考スタートで、3月から企業の合同説明会に行って話を聞いたぐらいでは、企業のことも自分との相性も何も分かりません。自己分析と企業研究は並行して反復することに意味があり、それには時間が必要です。

 大学は3年生だけでなく全学年対象に、ガイダンスなど企業を知る機会をつくるべきだと考えます。「早くから本腰を入れて就活しろ」と言いたいのではありません。学生が自分のタイミングで働くことについて吟味できる、柔軟な就職支援が必要です。その方が、学生生活や大学での学びと社会を結び付けやすい。学生には4年間をどう使うのか決める自由があります。

 企業は通年採用も視野に入れるべきです。新卒一括採用だと、レールに乗れなかった学生は就活のチャンスが減ります。優秀な学生から早くいなくなるという考えの企業も多いですが、留学や学外活動などに取り組んだり、やりたいことがやっと見つかったりという学生もいます。企業と大学が連携し、企業と学生が出会える場を柔軟につくっていく必要があります。

 《内閣府の人間力戦略研究会は2003年、若年失業やフリーター問題の深刻化から、キャリア教育の積極的推進を提言した。04年は「キャリア教育元年」といわれ、小中高校で本格的にキャリア教育が導入され、大学でも就職支援センターが一気に広まった》

 私はキャリア教育を一つの学問と捉えています。ミスマッチや早期離職に始まり、人生は自分がデザインした通りに行くことばかりではありません。発達心理学の観点から自分の人生における現在の位置を確認したり、経済経営学の観点から経済の仕組みを学んだりします。「就職は人生の一つのステップにすぎない」と学び、人生について考えるのです。

 しかしキャリア教育は当初から、学問的な捉え方と、就職支援の捉え方とで二極化しています。現在、就活を突破するための技術や知識を教える就職支援の側面だけが、キャリア教育として膨張しているように感じます。こうした就職支援は確かに必要で、私もキャリア教育の一つとして捉えていますが、長い目で見ると就活を終えた後には役に立たないものです。大学は本来、学問の場です。キャリア教育を必修とする以上、質の見直しが必要です。

 《少子化は進み、18歳人口は1992年の約205万人をピークに2009年には約121万人まで減少。一方、92年に523校だった大学は17年には780校に増え、存続に危機感を募らせる大学は就職率アップを目指し、キャリア教育にいっそう力を入れている》

 「大学に入れば就職できる」と思い、目的意識や基礎学力、社会的スキルの乏しい学生もいます。こうした現状を考えると、進学や就職について小中高から考えさせるキャリア教育がますます必要になってくるでしょう。ただ、キャリア教育を受けた学生が望ましい就職ができたか、ミスマッチを起こしていないか検証できておらず、さらなる研究が必要です。

 キャリア教育の使命は、学業と社会の橋渡しだと考えます。自分の疑問や関心にたっぷり時間をかけて研究したり、好きなことに打ち込めたりするのは大学時代だけです。それらの活動を通して主体性、課題解決力、人に自分の考えを説明する論理的思考力、情報収集力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、などを身に付けることができます。それは社会人に求められる力からそう遠くありません。学生時代にしかできない経験をたくさんして、多くを学んでほしいです。

 ▼しらい・しょうじ 専門はキャリア教育。会社員、法政大や九産大の講師を経て2015年から現職。長崎大の就職委員として学生の就職支援にも関わっている。42歳。


=2017/09/29付 西日本新聞朝刊=

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