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精神面への配慮は、企業利益にも【第19部】 提言 これからのハタラク<5> 山本 勲さん

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 ●慶応義塾大商学部教授 山本勲さん

 電通の違法残業事件を受け、企業では長時間労働の是正が最重要課題となりました。しかし、危ぶまれるのは「残業時間の削減」という数値目標だけが先走りしかねないこと。長時間労働の原因の検証や仕事の効率化がなされないまま、労働時間の帳尻を合わせようとすれば、より見えにくいサービス残業や下請け企業へのしわ寄せにつながり、労働環境が悪化する可能性があるからです。それは労働者の精神不調につながり、企業の利益を押し下げる要因にもなります。

 《昨年10月に公表された過労死等防止対策白書によると、2015年度の過労自殺は93件。同年度の精神疾患による労災申請件数は1515件で、1999年度の約10倍に上った。経済産業研究所などの調査データを用いた山本教授らの分析では、精神面の健康を崩して休職する従業員の比率が0・1%上がると、企業の利益率は2年ほどで0・16%下がることが分かった》

 企業を対象にした調査で精神面の健康を崩した休職者の比率は平均で0・4%程度ですが、休職者の存在が従業員全体の心の健康を代弁しているともいえ、企業は労働環境の改善に取り組まねばなりません。

 どのような場合に精神不調が悪化するのかを、労働時間や勤務形態、職場の評価体制などさまざまな観点から調べると「サービス残業」「退社しにくい雰囲気」「みなし労働時間制」などが要因になっていることが分かりました。しかし、40歳以上に限ってみると、対価にかかわらず長時間労働が精神の不調に影響しない傾向にあります。その層が自分の感覚で人材管理をすると、労働環境は悪化し休職者が増加しかねません。企業の利益も損ないます。マネジメント側の教育が重要です。

 《政府が示した働き方改革関連法案は、残業時間の上限を原則「月45時間、年360時間」とし、終業から次の始業までに一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」導入の努力義務などを盛り込んでいる》

 残業上限を設けることは評価できますが、精神不調の悪化を防ぐには、短期間内に労働者の心身をリセットさせる必要があり、勤務間インターバル制度を義務化するなど、さらに踏み込む必要があります。

 また、ドイツには繁忙期の超過労働時間を閑散期の休日に振り替えられる「労働時間貯蓄制度」があります。大きなストレスを労働者に与えているサービス残業が、まとまった休日という形で補償されれば、心身の回復につながるのではないでしょうか。

 《正規雇用者の10%超が週60時間以上働き、うち3~4時間は無駄な労働時間であることが、山本教授らの分析で明らかになった。どうすれば無駄な労働時間をなくすことができるのか》

 無駄といっても一人一人がだらけているという意味ではありません。労働者の1時間当たりの生産性が高い欧州で勤務した日本人へのアンケートでは、「上司がいると退社しにくい」「管理職の権限が小さいので意思決定が遅い」「内部資料まで丁寧に作る」など、日本企業の仕組みや風土が原因として指摘されました。各企業で試験的に残業をしない期間を作り、仕事の優先順位や意思決定のスピードなどを検証することで、労使が納得できる残業の上限を決めることができるでしょう。

 長時間労働は質のいい製品やきめ細かいサービスにつながり競争力を保っていることもあり、全否定する必要はありません。まずは非効率な労働時間を見極め、なくしていくことが重要なのです。

 ▼やまもと・いさむ 専門は労働経済学。2007年まで日本銀行に勤め、慶応義塾大准教授を経て現職。著書に「労働時間の経済分析」(黒田祥子早稲田大教授と共著)がある。47歳。


=2017/09/30付 西日本新聞朝刊=

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