黒麹、畜産を変革 成長率アップ、悪臭は抑える 鹿児島・源麹研究所

「麹にはすごいパワーがある」。麹の出来具合を検査する山元正博さん
「麹にはすごいパワーがある」。麹の出来具合を検査する山元正博さん
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環境ファームの豚舎に併設されたプラント。水と配合飼料を混ぜ、黒麹を入れて24時間発酵させる
環境ファームの豚舎に併設されたプラント。水と配合飼料を混ぜ、黒麹を入れて24時間発酵させる
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 焼酎造りを支えてきた黒麹(こうじ)が畜産を変えようとしている。麹による発酵飼料が家畜の育ちを良くし、悪臭の抑制や、ふんの堆肥化にも効果を発揮するという。焼酎業界を席巻した「黒」は、畜産の世界にもブームを巻き起こすのか。

 「体重の増え方が1日当たり15%もアップしました」。食肉関連会社「環境ファーム」(鹿児島県曽於市)の熊野政利社長(57)が笑顔で語る。6千頭の豚を肥育する農場(同県鹿屋市)で約1年半前に使い始めたのは「麹リキッドフィード」。水と配合飼料を混ぜ、黒麹菌を加えて発酵させた液状飼料だ。プラント(生産設備)で24時間発酵させて自動的にすぐ隣の豚舎へ流している。

 この飼料を使うようになって肥育期間は通常の240日が2週間ほど短縮された。「早く成長し過ぎないよう別の飼料の割合を高めて出荷を遅らせているぐらい」。病気などによる死亡率も3割ほど改善した。

 豚舎が「迷惑施設」とみなされる要因の悪臭も大幅に減った。「においの質が変わった。麹が発酵するときのような感じで、プラントは焼酎工場のようなにおいがする」と例える。

 防疫のため敷地には入れなかったが、7棟の豚舎を見下ろす場所では、かすかに甘いにおいを感じた。

 「とにかく豚が以前より健康になった。今後も成果を楽しみにしている」と熊野社長は期待する。

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 麹飼料を提案したのは源麹研究所(同県霧島市)。大半の焼酎メーカーが使う麹の種麹を製造・販売する河内(かわち)源一郎商店(鹿児島市)の3代目、山元正博会長(67)が鹿児島空港にほど近い所に設立した。

 麹と畜産が結びついたきっかけは、焼酎醸造後に出る焼酎かすを活用した餌作りの研究だった。かすに含まれる麹菌が家畜に与える影響に着目したのだ。

 目を付けたのは「黒○○」といった多くの人気銘柄を生んだ黒麹。効果を実証するために2010年、養豚場も開設、母豚80頭と千頭前後を肥育している。

 山元会長によると、麹菌は腸内の善玉菌を増やし腸内環境を改善して免疫力を高めることが判明。肉質を良くすることも確認した。ストレス抑制やタンパク質合成を促す作用もあり、餌を食べる量も減った。母豚の産子数も通常の8頭から10~12頭に増えた。

 麹がつくる大量の酵素は消化を促進。それによって未消化の餌による腐敗臭がなくなり悪臭が軽減した。

 ふんを使った堆肥作りは、完熟までの期間が3~4カ月から3週間に短縮された上、途中に発生する悪臭もふんの中の麹菌の働きによって抑制できたという。

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 同社の試算では、麹飼料が国内に普及すれば、成長率アップや肥育期間の短縮などによって、養豚だけで2千億円(卸売価格)の増産につながる見込みという。鶏や牛の餌としても有用なことが、成長率や受胎率の向上で確認されている。

 畜産はできるだけ早く大きく太らせて利益を出す事業だ。多様な餌を大量に与え、強制的に成長させるわけで、本来家畜の健康にとって良いことはない。

 ところが麹飼料は健康増進を助ける。それが成長を促し、良いふんとなり、結果として経済、環境、リサイクルにプラス効果を生んでいる形だ。「麹のすごいパワーは畜産の世界を変革できる」と山元会長は強調する。ただ取引先は現在、全国で20~30軒。普及に向けては、穀物業界など既得権益層との共存策を課題に挙げる。海外にも技術を広めようと欧米でも特許を取得、9月にはチェコに現地法人を設立した。

 日本の風土が育んできた独自の麹は、みそやしょうゆ、日本酒や焼酎などの発酵食品をもたらした。近年、改めてその健康効果が注目されている。畜産や環境分野にも新たな境地を開くのか。麹の可能性にもっと注目したい。 


=2017/11/22付 西日本新聞朝刊=

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