食と生産者の物語 「食べる通信」 産地と消費者つなぐ 「ふくおか」創刊 九州で6番目

「ふくおか食べる通信」の創刊号
「ふくおか食べる通信」の創刊号
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新聞1カ面分の見開き写真が魅力。タブロイド判の「水俣食べる通信」
新聞1カ面分の見開き写真が魅力。タブロイド判の「水俣食べる通信」
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 旬の食べ物と一緒に、その生産者を紹介する情報誌が家庭に届く。題して「食べる通信」。東日本大震災後の2013年、被災地の第1次産業再生を目指して岩手県で誕生。以来、各地で発刊の動きが広がり、今月は九州で6番目となる「ふくおか食べる通信」が創刊した。

 太陽の光を浴びる、たわわに実った柿。表紙を飾る写真は古里を象徴する。

 「購読者の皆さんに無事に届けられるのか、頭がいっぱいです」。出来上がった創刊号に福岡県朝倉市出身の編集長、梶原圭三さん(50)は気を引き締めた。

 取り上げたのは同市杷木志波の柿農家4代目(37)。創刊号はこの人にと思い定めて6月に依頼。それから間もなくしてあの集中豪雨が朝倉を襲った。山肌に広がる柿園のうち2割が土砂や流木でだめになった。それでも黙々と作業を続ける彼の果樹農家としてのこだわりと覚悟、そして復興への決意をつづった。

 梶原さんは情報通信関連会社などに勤務、今年7月に退社し帰郷した。それまで共同農園などで休日だけは“農”に関わってきた。

 昨年11月、「東北食べる通信」を創刊した元岩手県議の高橋博之さん(43)を交えた座談会を聞きに行った。「分断されている生産者と都会の人たちをつなぐ。食べる通信はそのための手段」。そんな言葉に共感した。

 編集チームは梶原さんと外部のデザイナーやカメラマンら計4人。隔月発行、タブロイド判の情報誌は消費税・送料込み3500円で、創刊号は柿5、6個と一緒に読者の元に届く。

 東北では、被害に遭った生産者のSOSに読者がボランティアで駆け付けるような関係が築かれているという。通信で最も伝えたいのは「人」。「何かあったら『大丈夫やろうか』と読者が心配する、ごひいきの生産者をつくることです」

   ◇    ◇

 全国の食べる通信は14年、「日本食べる通信リーグ」を組織。これまでに36都道府県のNPOや個人、企業などによる39誌(準備中含む)が加盟している。3カ月に1度の会議で事業計画が承認されれば創刊となる。九州の加盟誌は、長島大陸(鹿児島県長島町)▽水俣(熊本県水俣市)▽SAGA(佐賀市)▽高千穂郷(宮崎県高千穂町)▽さいき・あまべ(大分県佐伯市)▽かごんま(準備室・東京、18年4月創刊予定)がある。

 今月中旬、九州の5誌の編集長らが水俣市に集まり、食べる通信の知名度を上げる共同事業について論議した。「若手を応援する通信もあれば、60歳以上の人にスポットを当てる通信もある。本気で頑張っている生産者を懸命に応援するんだという意志を共有できた」。そう語るのは季刊「水俣食べる通信」(税・送料込み2980円)の諸橋賢一さん(38)。

 東京に生まれ、自分で食べ物を作れるようになりたいと東京農大で有機農法を学んだ。12年間の農薬メーカー勤務で感じたのは、生産者の情熱や農業の魅力が食べる人に伝わっていないこと。消費者の選択肢を増やす小規模流通の仕組みづくりを思い立ち、福岡へ転勤後退社して、大学時代の親友がいた水俣に14年12月、移住した。

 そこで真摯(しんし)に食べ物を作る人たちに出会う。「水俣病」を経験したこの地ほど、生産者が「食」の安全や「命」に向き合ってきた地域はないのではないかと感じ、震災後のボランティア活動を通じて知った食べる通信に行き着いた。「水俣で生きてきた人からにじみ出る言葉を大切にしたい」と、15年12月に創刊した。

 掲げたテーマは「みなまた、食の恩返し」。読者約200人のうち、約半数が地元だ。漁師や農家、水俣病の患者、チッソで働く人、行政の人も、さまざまな視点で水俣への思いを共有できる媒体が目標だ。「海や山を行き来する機会が増えて、新たなコミュニケーションを育むきっかけにしたい」


=2017/11/29付 西日本新聞朝刊=

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