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【九州の100冊】~総集編 2006年1月8日(第1回配本)~2008年3月2日(第100回配本) 多様性を貫く水脈あり

雄飛、冒険、夢…。九州を取り囲む海は多彩で豊かな文学を生み出し続ける
雄飛、冒険、夢…。九州を取り囲む海は多彩で豊かな文学を生み出し続ける
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 二〇〇六年一月から始まった「千年書房 九州の百冊」は、本編百冊に続いてリクエスト編三冊の配本をすべて終えました。二年三カ月間にわたるご愛読、ありがとうございました。

 連載中、リクエストを含め、多くのメールやはがきが届きました。過去に配本した「別冊」でも触れましたが、「水、海にまつわる本が多い」といった感想が少なからず寄せられ、「九州の本」の多様性を貫く、いくつかの水脈が存在することに気付きました。

 言うまでもなく、日本は列島国家です。海に囲まれているのは、北海道も四国も本州も同じですが、九州の海はとりわけ外部に開かれたイメージが強いのではないでしょうか。朝鮮半島、大陸が近いためかもしれません。島伝いに奄美、沖縄、台湾へと伸びる「海上の道」が、九州と東南アジアの距離感を縮めているのかもしれません。

 開かれた海は、少年の見果てぬ夢やあこがれを誘うこともあれば、野心に燃える男たちが縦横に暴れ回る舞台にもなります。一方でそれは、からゆきさんや強制連行された朝鮮半島の人々の哀(かな)しみが渡った海でもあるのです。

 海のさざなみとともに、九州の本から聞こえてくるもう一つの主低音があります。それは、近代のひずみにあえぐ人々の痛苦や悲しみに満ちた声です。

 筆頭にあげられるのは、科学の発展がもたらした原爆の惨禍でしょう。原爆被害の悲惨な実態を世間に突きつけ、そこから人間の尊厳や差別の構造を考え抜いた被爆世代の作家に続いて、戦後生まれは「記憶の風化」や「語り口の平準化」という問題に現在進行形で取り組んでいます。

 日本の近代化を文字通り底辺から支えながら、エネルギー政策の転換に伴ってうち捨てられた石炭産業の労働の場から、抵抗と記録の文学が生まれました。水俣病という未曾有の公害被害からも、長く読み継がれる作品が生み出されています。六〇年代から七〇年代前半にかけて発表されたこれら一連の作品は、周縁から近代の暗部を撃つ、全国的にも前例のない文学的営為で、現代社会を考える際の礎石となっています。

 千年書房は“閉店”しますが、九州からは優れた本がこれからも続々と生まれます。ジャンルを文学に限っても、吉田修一(長崎出身)や大道珠貴(福岡出身)といった作家が中堅の域に入り、充実した作品を発表するようになりました。もし、千年書房が再オープンする日があれば…。本棚には、どんな本が並ぶのでしょうか。

第1回配本 村上龍「69(シクスティナイン)」

第2回配本 松本清張「点と線」

第3回配本 土門拳「筑豊のこどもたち」

第4回配本 林芙美子「浮雲」

第5回配本 椋鳩十「大造じいさんとガン」

第6回配本 遠藤周作「沈黙」

第7回配本 畑中純「まんだら屋の良太」

第8回配本 夢野久作「ドグラ・マグラ」

第9回配本 鹿児島県編「麑海魚譜」

第10回配本 石牟礼道子「苦海浄土」

第11回配本 五木寛之「戒厳令の夜」

第12回配本 夏目漱石「草枕」

第13回配本 島尾敏雄「魚雷艇学生」

第14回配本 宮本常一「忘れられた日本人」

第15回配本 宮崎康平「まぼろしの邪馬台国」

第16回配本 丸山豊「月白の道」

第17回配本 若山牧水「若山牧水歌集」

第18回配本 菊池寛「恩讐の彼方に」

第19回配本 井上光晴「明日 一九四五年八月八日・長崎」

第20回配本 梅崎春生「幻化」

第21回配本 大城立裕「カクテル・パーティー」

第22回配本 三戸サツエ「幸島のサル」

第23回配本 野上弥生子「海神丸」

第24回配本 下村湖人「次郎物語」

第25回配本 島比呂志「奇妙な国」

第26回配本 萩尾望都「トーマの心臓」

第27回配本 松下竜一「砦に拠る」

第28回配本 林京子「祭りの場」

第29回配本 福沢諭吉「福翁自伝」

第30回配本 檀一雄「リツ子・その愛 リツ子・その死」

第31回配本 佐木隆三「復讐するは我にあり」

第32回配本 岩切章太郎「無尽灯」

第33回配本 岩下俊作「富島松五郎傳」

第34回配本 柳田国男「後狩詞記」

第35回配本 田中一村「田中一村作品集」

第36回配本 野呂邦暢「諫早菖蒲日記」

第37回配本 森鴎外「阿部一族」

第38回配本 北原白秋「思ひ出」

第39回配本 杉田久女「杉田久女句集」

第40回配本 白石一郎「海狼伝」

第41回配本 武者小路実篤「君も僕も美しい」

第42回配本 栗林慧「栗林慧全仕事」

第43回配本 岡松和夫「志賀島」

第44回配本 海音寺潮五郎「西郷隆盛」

第45回配本 横光利一「旅愁」

第46回配本 火野葦平「花と龍」

第47回配本 宇能鴻一郎「鯨神」

第48回配本 福永武彦「廃市」

第49回配本 山本作兵衛「王国と闇」

第50回配本 種田山頭火「山頭火日記」

第51回配本 永井隆「長崎の鐘」

第52回配本 赤川次郎「三毛猫ホームズの無人島」

第53回配本 国木田独歩「源おぢ」

第54回配本 与謝野鉄幹ほか「五足の靴」

第55回配本 森崎和江「からゆきさん」

第56回配本 那珂太郎「はかた」

第57回配本 安本末子「にあんちゃん」

第58回配本 岩田豊雄「海軍」

第59回配本 上野英信「追われゆく坑夫たち」

第60回配本 梶原一騎「巨人の星」

第61回配本 石沢英太郎「羊歯行」

第62回配本 郭沫若「行路難」

第63回配本 大西巨人「神聖喜劇」

第64回配本 徳冨蘆花「灰燼」

第65回配本 中村汀女「汀女句集」

第66回配本 林房雄「繭」

第67回配本 城山三郎「落日燃ゆ」

第68回配本 内田春菊「ファザーファッカー」

第69回配本 滝口康彦「異聞浪人記」

第70回配本 内田百ケン「第一阿房列車」

第71回配本 中村地平「日向」

第72回配本 野田宇太郎「九州文学散歩」

第73回配本 野田秀樹「パンドラの鐘」

第74回配本 山田かん「記憶の固執」

第75回配本 ラフカディオ・ハーン「東の国から」

第76回配本 劉寒吉「山河の賦」

第77回配本 ユージン・スミス/アイリーン・スミス「水俣 MINAMATA」

第78回配本 山之口貘「山之口貘詩集」

第79回配本 北方謙三「武王の門」

第80回配本 帚木蓬生「三たびの海峡」

第81回配本 長谷川法世「博多っ子純情」

第82回配本 宮崎滔天「三十三年の夢」

第83回配本 谷川雁「原点が存在する」

第84回配本 佐藤正午「永遠の1/2」

第85回配本 一ノ瀬泰造「地雷を踏んだらサヨウナラ」

第86回配本 徳富蘇峰「蘇峰自伝」

第87回配本 原田種夫「九州文壇日記」

第88回配本 藤原新也「少年の港」

第89回配本 目取真俊「水滴」

第90回配本 久留島武彦「童話術講話」

第91回配本 夏樹静子「蒸発」

第92回配本 川原一之「口伝 亜砒焼き谷」

第93回配本 高樹のぶ子「銀河の雫」

第94回配本 青来有一「聖水」

第95回配本 松本零士「銀河鉄道999」

第96回配本 安永蕗子「青湖」

第97回配本 平野遼「地底の宮殿」

第98回配本 村田喜代子「百年佳約」

第99回配本 辻仁成「白仏」

第100回配本 長谷川町子「サザエさん」


※「九州の100冊」は2006年~08年に西日本新聞で連載。九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら作品を紹介したシリーズです。この記事は2008年3月30日付で、内容は当時のものです。

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