【和食力】しょうゆ 発酵が決め手 ミツル醤油醸造元 自社醸造にこだわり

もろみを入れた布袋が収まる圧搾機をのぞく城慶典さん
もろみを入れた布袋が収まる圧搾機をのぞく城慶典さん
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もろみを重ねた圧搾機から落ちるしょうゆ
もろみを重ねた圧搾機から落ちるしょうゆ
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 約40年ぶりに自社醸造したしょうゆ「生成(きな)り、」は香ばしい香りが評判を呼んだ。福岡県糸島市二丈深江の「ミツル醤油(しょうゆ)醸造元」。復活させた4代目、城慶典さん(31)には思い当たる節があった。

 しょうゆの原料は大豆、小麦、塩。蒸した大豆といった小麦を混ぜてこうじを造る。これに食塩水を混ぜた「もろみ」を発酵、熟成させた後、布に包んで搾ったものがしょうゆとなる。

 かつて仕込み蔵だった倉庫の壁や柱には飛び散ったもろみの跡があった。東京農大醸造科時代、これを採取し、中に含まれる酵母を分離して培養した。2010年、冷凍保存していた菌体を初の仕込みにも使った。「酵母によって40年前のしょうゆ蔵と一つ、つながることができるでしょう」

 そんなこだわりが思わぬ効果を生んだ。しょうゆの香り成分は約300種類。果物や花と同じ成分も含まれる。香りの決め手は、酵母のアルコール発酵だ。評価の高い香りは40年前の酵母がもたらしてくれた。城さんは、そう信じている。

 「生成り、」を使う地元店の中には「にぎりの最後の味を決める」という大切なしょうゆを変えた老舗すし店もある。福岡市中央区の吉冨寿しは「程よい濃さと香りの良さ」が気に入り、1年ほど前から使う。昆布とかつお節のだしを取り込んだ、煮切りじょうゆだ。「素材にうまく寄り添うバランスの良さに納得している」と大将の吉冨等さん(64)は言う。

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 和食に欠かせない発酵調味料しょうゆ。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五原味が調和、あらゆる食材や料理を引き立てる。

 福岡県内の多くのしょうゆメーカーは県醤油醸造協同組合(筑紫野市、98社)から生(き)しょうゆを仕入れ、地元の好みに合わせて加工、販売している。組合員のミツル醤油も1960年代から今もその方式を取る。

 城さんは高校生のとき「自分の手でしょうゆを造りたい」という夢を抱き進学。大学在学中に、伝統的なしょうゆ造りを続ける全国の蔵7カ所で研修し、卒業後は広島の蔵で1年間働いた。フードビジネス業界についても学んだ。実家に戻ったのは25歳のとき。蔵の補修やこうじ室(むろ)の増築、木桶(きおけ)や蒸し器などの設備を整え、仕込みを始めた。

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 仕込み蔵のひんやりとした空間に、できたてのしょうゆが落ちる音がポタポタと響く。昨年11月に仕込んだ初挑戦の薄口しょうゆ。伝統製法は九州では少ないという。「いい物ができました」。城さんが、もろみを包んだ袋が収まる圧搾機をのぞいた。

 木桶(直径約2メートル、高さ約2メートル)は12、13、14年度と二つずつ仕込んだ計六つ。もろみは11~2月に仕込むのが自然に沿うという。他の菌の働きを抑えつつ、こうじ菌の酵素がタンパク質やでんぷんを穏やかにアミノ酸と糖に分解する。暖かくなると酵母菌、乳酸菌が活発になり、糖を餌に発酵し、アルコールと乳酸を造る。ピチピチと音をたてるもろみを見守る日々が続く。

 菌の働きは、長さ約3メートルの櫂(かい)棒でかき混ぜながら空気を送り、調整する。城さんは「もろみが濃い茶色に変化していく様子に微生物の営みを感じる」。

 商品化まで2年以上をかける「生成り、」の「、」には、次の商品を続ける思いを込めたという。毎年の仕込みで、塩の産地やこうじ菌の種類を変えて、出来の違いを見極める。自然と向き合いながら、少しでも良い技術、条件の探求は続く。

 ◇ミツル醤油醸造元=092(325)0026。

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 ●しょうゆの種類

 大きく分けて5種類。出荷量の84%を占める「濃口」、13%の「薄口」、主に中部地方で造られる濃厚な「溜(たまり)」、食塩水の代わりにしょうゆを使う「再仕込み」、小麦を主な原料にした甘味の強い「白」がある。


=2015/09/23付 西日本新聞朝刊=

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