【「空白」を生きる 若年性認知症】<2>介護と育児と…家族疲弊

若年性認知症の母(手前左)と子ども3人の傍らで、家事に追われる女性は座る暇もない
若年性認知症の母(手前左)と子ども3人の傍らで、家事に追われる女性は座る暇もない
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 平日の夕方、福岡市のパート女性(34)の声はとげとげしさを増す。家族7人分の夕食作りと洗濯物の片付けをしながら、小学1年の長女(7)の宿題を見て、長男(4)と次男(3)を風呂に入れる。仕事と育児の両立を手伝ってくれると期待していた母(59)は、じっとソファに座ったままだ。

 昨年4月、母は58歳で「若年性認知症」と診断された。父(58)は東京に単身赴任中で、定年退職まで戻る予定はない。妹は結婚して神奈川県在住。2人暮らしだった母と祖母(82)を放っておけず、同居を決めた。今春、新築した自宅で、会社員の夫(33)と合わせ計7人で暮らしている。

 育児と仕事だけでも大変な時期に、介護も女性の肩にのしかかる。「私も母ももっと年を取っていれば『今までありがとう』って、優しく介護できたかもしれないけど…」。母の症状が進むにつれ、女性の神経はささくれ立つ。

 振り返れば、母は3年以上前からおかしかった。メニューが浮かばないと毎日煮物を作ったり、同じ調味料を大量に買い込んだりした。次男を預けると、離乳食を食べさせたかどうかもおぼつかなかった。

 更年期障害に伴ううつを疑ったが、育児に追われる女性は受診を強く勧められなかった。たまたま訪れた皮膚科の受付で認知症を疑われ、連れて行った総合病院で脳の萎縮が見つかった。

 現在、要介護2。食卓で自分と家族の食べ物が区別できない。着替えと汚れ物も分からず、すべて洗濯機に入れてしまう。注意すると「分かっとう」と返ってくる。

 平日はデイサービス(通所介護)、週末はショートステイ(短期入所)と、介護保険の範囲を超えたサービスに頼っている。次男にはぜんそくがあり、母子同伴で入院となるたびに母の預け先確保に奔走するなど、想定外の事態も起こる。

 同世代の友人に悩みを分かってもらえないのもつらい。「介護する家族へのサポートがもっとあれば」。家族旅行もままならず、女性のストレスは限界までたまっている。

 65歳未満で発症する若年性認知症は、介護する家族も若い。仕事や子育てなどと重なる例も多くなる。

 認知症の人と家族の会福岡県支部(福岡市)が、若年性認知症の人や家族のために開く「あまやどりの会」。2カ月に1回の集いに最近、20~30代の若い参加者が目立つようになったという。就職活動中に親が発症し、就職先に悩む学生が来たこともあった。

 本人も家族も認知症を受け入れられない。周囲に話せない。介護保険サービスの利用の仕方を知らない。運転をやめさせられない…。「まだ若いのに」という思いが強いからか、高齢者の認知症に比べても、介護する家族の悩みは深刻になりがちだ。

 49歳で発症した夫の介護経験がある世話人の下田照子さん(68)は「誰かに助けを求めて思いを吐き出したり、情報を集めたりすれば、介護もうまくいくはず。絶対に抱え込ませず、孤立させない支援と環境づくりが必要」と訴える。

 〈若年性認知症の相談窓口〉

 若年性認知症コールセンター=(0800)1002707=は、月~土曜日の午前10時~午後3時(祝日、年末年始は除く)。無料。認知症介護研究・研修大府センター(愛知県大府市)の相談員が対応する。「認知症の人と家族の会」(本部・京都市)=(0120)294456=の各県支部でも家族会や本人交流会を開き、相談に応じている。


=2015/09/24付 西日本新聞朝刊=

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