【和食力】地域の味守るしょうゆ 筑豊食品工業と福岡県醸造組合 技術究め大臣賞

「地域の食文化を守りたい」と語る藤浩太郎社長
「地域の食文化を守りたい」と語る藤浩太郎社長
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麹を造る自動製麹装置。3台が年間を通じて稼働している
麹を造る自動製麹装置。3台が年間を通じて稼働している
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 「九州のしょうゆの品質の高さを示せた。自信になります」。1日、都内で表彰式があった全国醤油(しょうゆ)品評会。農林水産大臣賞に初めて選ばれた喜びを筑豊食品工業(福岡県飯塚市)の藤(とう)浩太郎社長(45)はこう表現した。

 出品したのは濃口の「茜(あかね)」。前回は最高賞に次ぐ局長賞だった。今回は大臣賞4点の最上位にランクされ、まさに日本一。それでも藤社長は「理想のしょうゆかと問われると、そうでもない」と打ち明ける。「地元の品を代々使っている顧客に薦めても、まず使いませんから」

 忘れられない苦情がある。いつもの銘柄を配達すると「少しからいよ」と女性。検査も終えた、いつもの商品と説明する社長に「この家は私が生まれる前からこれを使いよおと。どっちが分かってると思いよおと?」とぴしゃり。「(熟成などの)なれが浅かったのかも」。頭を下げるしかなかった。「慣れの調味料」のしょうゆ。顧客にとって何が大事かを思い知った。

 九州のしょうゆはうま味と甘みが特徴。「あんなのはしょうゆじゃない」と関東の業者らから格下に見られることも。だからこそ「そっちの土俵の本醸造で勝負できる技術を証明した」と藤社長は胸を張る。

 頂点に立てたのはなぜか。藤社長は少し間を置いて口を開いた。「生揚(きあ)げの出来が良かったということでしょう」

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 大豆と小麦の麹(こうじ)を食塩水と仕込んだもろみは約半年、発酵・熟成させる。それを布に包んで搾ったのが生揚げしょうゆ。製造元は福岡県醤油醸造協同組合。同社をはじめ組合員は予約して、できた生揚げを地元の好みに合わせて加工、出荷する。

 工場は何もかも桁違いだ。もろみの発酵タンクは40~240キロリットルが計84本。巨大なステンレス製のたらいのような自動製麹(せいぎく)装置は33トン用1機、22トン用2機が年間を通じて稼働している。

 品質向上のポイントは「微生物を有効に働かせる環境づくり」と野田義治専務理事(68)。組合で働き43年、農学博士を得た論文は「しょうゆ醸造技術の改善に関する研究」だ。

 味を決める種麹は自家培養し、2種を混ぜてうま味を倍増させた。もろみに入れる酵母菌、乳酸菌も純粋培養。味の締まりとうま味の伸びを引き出す乳酸菌は凝集するタイプにして清澄さを追求した。

 自動制御の工程があっても、香りや発酵の具合は職員が五感で利き味(み)する。「人間に勝るセンサーはない」と井沢圭史・製造部長(42)。かき混ぜの強弱などを判断、機器を操作する。

 品質は今回の品評会でも裏付けられた。組合の薄口も大臣賞4点の一つになり、2002年の初出品から5回目を数える。

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 組合の生揚げを使う「茜」は厳密にいえば、一部の消費者がこだわる一貫製造ではない。だが組合が長年培った技術と、自分たち作り手の矜持(きょうじ)が生んだ紛れもない自社商品だと思う。

 評価の60%を占める香り(新鮮さ、調和、食欲をそそる芳香)の鍵は「火入れ」。温度や加熱時間、適温に達する早さ、冷やし方、副原料の砂糖とアルコールを入れる量とタイミングなど試行錯誤を重ねた。「茜はわが社の技術と品質の基準。それによって甘さやうま味が醸す古里の味を守るのが使命です」

 価格競争にもまれる中小業者にとって厳しい現代。しょうゆが醸す地域の食文化を守る仕組みがここにある。

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 ●福岡県醤油醸造協同組合

 県内の事業者が共同出資し、生産性、技術開発などの改善を目指した中小企業近代化促進法に沿って1966年設立。都道府県別で全国最多の事業者を支える。製造技術に関する論文は、日本醤油技術センターでの発表分だけでも27本、技術賞は5回を数える。組合員数98社。


=2015/10/14付 西日本新聞朝刊=

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