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【暮らしの行方】<上>保育 財源確保めどたたず

■2016 参院選■ 
 22日公示、7月10日投開票の参院選が迫っている。私たちの暮らしはどう変わるのか。現状と課題、各党の主張を見つめた上で、私たちの貴重な1票を投じたい。保育、介護、労働の三つのテーマで考える。

 「もう保育士はしないと思います」。福岡市の元保育士の女性(33)はそう漏らした。出産を機に保育所を辞め、現在は保育士ではないパートの仕事をしている。保育士のころは正規職員で手取り十数万円。夜は職場でピアノの練習をし、帰宅後も翌日の工作の下準備や書類作成に追われた。「同じ給料で、こんな思いをせずに済む仕事はいっぱいある」。同年代の保育士仲間も、今は大半が違う仕事をしている。

 2015年4月1日時点の待機児童は約2万3千人。受け皿拡大が急務だが、保育士不足が足を引っ張る。理由の一つは賃金の低さ。厚生労働省の調査(15年)では、保育士の月の平均給与は全業種平均より約11万円低い約22万円だった。

 政府は今月発表した「1億総活躍プラン」で、17年度末までに受け皿を50万人分拡充し、保育士の給与を2%(月約6千円)、経験ある職員は月4万円程度上げると掲げた。

 子育て支援制度に必要な財源は年約1兆円。「7千億円は消費税を充てる」としていたが、うち1千億円は消費増税再延期により見込めなくなった。残りの3千億円のめどもついていない。

 政府は「アベノミクスの果実(税収増)」を活用し保育士の処遇改善を前倒しで行うとしているが、現段階で財源は不明確だ。豊庄保育園(同市)の西尾達園長(61)は「景気に左右される財源では、きっちりと確保ができたとはいえない」と指摘する。

 保育士が離職する別の理由に、子育てとの両立の難しさがある。保育所は園児数に対し必要な保育士数を配置する「配置基準」を日々満たさなければならず、保育士の産休や育休、欠勤をカバーするだけの余裕がない現場も多いという。保育士の平均勤続年数(15年)は7・6年と、全産業平均の12・1年に比べ短い。

 ただ、離職率が下がりベテラン保育士が増えると、人件費が経営を圧迫するというジレンマも現場にはある。30年近く保育士として働く同市の50代女性は「赤ちゃんが3人一斉に泣いても、ベテラン保育士は対応できる。保育士の能力は、子どもが安心して過ごせる環境に直結する。参院選では、保育の質も確保できる制度のあり方を論じてほしい」と話す。

    ◇      ◇

 ●「量、質の充実」妙案なく 各党

 「保育士の給料アップ」「待機児童の受け皿拡大」など、保育の施策についての各党方針は「保育の量と質の充実」という方向性は同じで、大差はない。

 民主、維新(いずれも当時)、共産、社民、生活の野党5党は3月、保育士の給与を平均して1人当たり月額5万円引き上げるなど保育士の処遇改善法案を共同で衆院に提出した。共産は「30万人分の認可保育所を増設」と主張している。

 問題は、消費税増税の先送りにより穴があいてしまった財源を、どう確保するかだ。「アベノミクスの果実の活用も含め、財源を確保して優先して実施していく」(安倍晋三首相、1日の記者会見)とする与党に対し、民進は赤字国債などで賄うと説明していた。ただ岡田克也代表は「赤字国債は最後の手段であり、まずは行政改革をしっかりやるべきだ」(9日の記者会見)と述べ、15日に発表した公約では「行政改革と身を切る改革を徹底する」など、赤字国債については触れなかった。

 保育士の確保について、給料引き上げ以外に各党妙案がないのが実態だ。3月の参院予算委員会では、新党改革の荒井広幸代表が「保育士らを社会的に評価すべきだ」と主張したのに対し、安倍首相は「保育士や介護職員を叙勲で積極的に評価することも検討したい」と答えた。


=2016/06/17付 西日本新聞朝刊=

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