同世代だから伝えられること…… 医学生が取り組む性教育 感染症の予防を呼び掛け 「多様な性」とも寄り添う

「もしあなたがLGBTの当事者だったら」をテーマに議論を交わす学生たち
「もしあなたがLGBTの当事者だったら」をテーマに議論を交わす学生たち
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 ■新訳男女 語り合おう■ 
 医学生が“先生役”を務める性教育が全国で試みられている。親や教師には話しにくい「性」の問題を、価値観の近い同世代が伝えることで、真剣に受け止めてもらうのが狙いだ。医療を学ぶ立場を生かして性感染症の予防を呼び掛ける一方、同性愛や性同一性障害など「多様な性」の在り方も取り上げ、命と向き合っていく医学生自身が学ぶ場にもなっている。 (新西ましほ)

 「3人と自己紹介しながら、カップの中身を混ぜて交換してください」

 九州大学医学部の一室。約50人の学生たちが色とりどりの紙切れの入ったカップの中身を交換し始めた。作業を終えると、司会の学生が声を掛ける。「赤い紙が入っていた人は手を挙げて」。当初三つのカップにしか入っていなかった赤い紙は、半数以上の学生に広がっていた。

 実はこれ、性感染症がどのように広がるかを学ぶゲーム。赤い紙は性感染症を引き起こすウイルス、中身の交換はセックスを表現している。厚生労働省によると、ここ10年で主な性感染症の報告数は減少傾向にあるものの、若者の割合は依然として高い。淋病(りんびょう)は半数、クラミジアは6割を10~20代が占めている。

 「恋人を信じているから大丈夫という人も、その元彼女や元彼氏の性関係までは分からない。自覚症状が少ないものもあり、誰でも感染する可能性があるんです」。産業医科大学2年の高岡慧さん(23)が解説してくれた。

 6月にあったこのイベントは、新たに医学部へ入った九州の学生を対象にしたもの。全国の医療系学生でつくる国際医学生連盟日本の「性と生殖・AIDSに関する委員会」(SCORA)が企画した。若者の性に関する知識や意識を向上させることを目的に各地で出前授業などに取り組んでおり、昨夏に熊本大学でイベントを開くなど九州でも活動が広がっている。

 性感染症やエイズの問題に加え、最近力を入れているのがLGBT(同性愛や両性愛、トランスジェンダーなど性的少数者の総称)についての知識を深め、広める活動だ。2010年に宮崎大学医学部5年の土岐紗理さん(25)がプロジェクトを立ち上げ、各地で大学生を対象にした勉強会を開いてきた。

 土岐さんは、特に同じ医療系の学生に対する啓発の重要性を指摘する。「命と直結する場面が多いため、対応一つによって患者さんや家族の人生を変えてしまう。LGBTへの理解があれば、医療処置の選択を変えたり、同性パートナーのことを家族と同様に扱ったり…。臨機応変の対応ができるのでは」と話す。

 問題を身近に感じてもらうため、ワークショップの手法には工夫を凝らしている。この日は、LGBTに関する基礎知識を学んだ後に、参加者が「もしあなたが当事者だったら」をテーマに議論。「カミングアウト(公言)するか」「病院で困ることは何か」。当事者の気持ちに寄り添うことで、現在の問題点や改善策を考えた。

 「問診票には男女の記入欄しかないが、それ以外の答えも書き込めるようにするべきだ」「心療内科との連携も必要だと思う」「対応マニュアルを作った方がいい」‐。医療関係者ならではの視点で活発な議論が交わされた。

 同じ医学生で当事者という立場から、福岡県内の大学5年生の真さん(24)も体験談を語った。戸籍上の性別は女性だが、心は男性で将来は小児外科医を目指している。性別違和に悩みながら歩んできた人生を振り返り「LGBTの患者さんに接する機会は必ずあると思う。常に頭の片隅において、問診や診察を行ってほしい」と呼び掛けた。


=2013/07/20付 西日本新聞朝刊=

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