【耕運記】グリーンツーリズム 農泊、心がくたびれた時に 大分・臼杵市野津町

ニラ選別を体験するツアー参加者
ニラ選別を体験するツアー参加者
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民泊農家を紹介したリーフレットを手に笑顔の川野さん夫妻。真平さんが膝を悪くした後に始めたコメも味の良さで人気
民泊農家を紹介したリーフレットを手に笑顔の川野さん夫妻。真平さんが膝を悪くした後に始めたコメも味の良さで人気
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 弓なりになったニラの先端に朝露が光る。たまった露は今にも転がり落ちそう。ビニールハウスの奥までびっしりと続く水玉の列に、しばし見入った。今月下旬に訪れた大分県臼杵市野津町での農村民泊2日目、朝の散歩で出くわした光景が、忘れられない。

 お世話になった一家は4世代、6人家族。川野真平さん(69)は49歳で建設会社を辞めて実家の農業を継いだ。長年ハウスでニラを育て、今はコメを主体に有機農法を実践する。

 妻トミエさん(71)が腕を振るう夕食を居間のこたつでいただいた。「お茶は?」などと気遣ってくれる90歳のおばあちゃん、娘さん2人、高校生のお孫さんが隣の食堂で食卓を囲む。

 手羽先の唐揚げ、大豆の素揚げ、味付けご飯など家庭の味がたっぷり。名物の団子汁はお代わりした。

   ◇    ◇

 参加した2泊3日の農泊ツアーは、野津地区のグリーンツーリズムの受け入れ農家や観光協会などで組織する「うすきツーリズム活性化協議会」が主催。メディアや企業担当者、地元関係者が参加した。

 地区が受け入れている宿泊客数は2002年の開始以来ほぼ右肩上がりで、昨年は1943人を数えた。「『その国、初めて聞いた』と言いつつ軽く受け入れるチャレンジ精神」(協議会事務局)で韓国や中国、オランダ、イスラエルなど海外からが37%を占める。

 ただ海外客は為替相場などに影響される。今は3割程度を占める修学旅行客の受け入れ増も、少子化でこの先は期待しにくい。そこで今回は通常の農作業体験だけでなく、企業の研修や福利厚生での利用を想定したプログラムを組み、課題を探るモニターツアーを企画した。

 土に触れることで得られる充足感や農家の家庭的な雰囲気を、ストレス社会に生きる人たちにも体験してもらいたい。「金もうけではなく、人もうけ」を合言葉とする受け入れ農家の人たちには、そうした思いもある。

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 「修学旅行生ですか? そりゃ、いろんな子どもたちが来ますよ」。酒代わりのお茶を手に川野さんが口を開いた。子どもたちの中には、不登校などの事情を抱えた子も少なくないという。5年ほど前、関西から来た中学3年の男子生徒は「お茶がほしい」などと理由を付けては、食卓から離れようとしなかった。やがて両親の離婚や、忙しい母親に代わり弟たちを世話する苦労を語りだした。部屋に戻るときには、寂しげだった表情が少し明るくなった気がした。「にぎやかな家庭に心を開いたんじゃないかな」とトミエさんは思い出す。

 「ほとんどの子は別れ際、ありがとうって言ってくれ、ハグして別れます」とうれしそうに話す川野さんは「子どもたちの笑顔を見ると、また何か楽しいことをしてあげたいと思う」。

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 農産物の収穫や選別作業に加え、コミュニケーション力を育てるセミナーもあった農泊ツアー。最終日の意見交換会では、モニター参加者から「研修にも明確な成果を求める企業からの申し込みは期待できない」といった課題が示された。一方「朝の散歩で五感が研ぎ澄まされた。ぜいたくな時間だと思う」「家庭の安心感が良かった」「頭の中からリセットできた」との発言も相次いだ。自然豊かな農村で心が開かれ、癒やされる感覚は確かにあった。

 セミナーではプログラムの一つにキャッチボールがあり、コミュニケーションに必要な相手への気遣いや声掛けなどをあらためて確認した。農家と訪問客との心のキャッチボールもまた「心の交流」を生む。

 心を病んだとき、病院じゃなく「農泊に行ったら」。そんな会話が聞かれる日は来るだろうか。

 ▼グリーンツーリズム 農山漁村地域で自然、文化、人々との交流を楽しむ余暇の過ごし方。先進地の欧州では、農村に滞在するバカンスが普及する。日本では1995年、農山漁村余暇法が施行され、農林水産省が受け入れ体制の整備や施設を運営する職員の雇用を支援する事業などを進めている。


=2016/11/30付 西日本新聞朝刊=

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