【生きる 働く 第15部】孤立させない 生活困窮者<5完>識者に聞く 垣田 裕介さん 奥田 知志さん

大分大大学院准教授 垣田 裕介さん
大分大大学院准教授 垣田 裕介さん
写真を見る
NPO法人抱樸の理事長 奥田 知志さん
NPO法人抱樸の理事長 奥田 知志さん
写真を見る

 生活に困り、社会的に孤立した人たちをどう支えればいいのだろう。「生活困窮者自立支援制度」が始まって1年8カ月。制度をめぐる課題や求められる支援の在り方を、貧困問題に詳しい大分大大学院准教授の垣田裕介さん(40)と、困窮者支援に取り組むNPO法人抱樸(ほうぼく)(北九州市)理事長の奥田知志さん(53)に聞いた。

 ●就労後のフォロー大事 垣田 裕介さん 大分大大学院准教授

 生活困窮者を取り巻く状況はここ20年ほどで大きく変わった。核家族化で家族の機能が弱体化し、互いの生活を支え合うことが難しくなった。高齢の単身世帯も増えた。労働環境の面でも、IT技術の進歩で仕事が複雑になり、電子機器を使いこなせない人、コミュニケーションが苦手な人は仕事に就きにくくなっている。

 そうした人たちが仕事に就けるようにする支援はもちろん大切だが、むしろ働き続けられるようにするサポートこそ重要。それを雇用する側に任せると、企業が負担を嫌って就労の機会が減ってしまうおそれがある。行政は就職だけでなく、定着するためのフォローアップに力を入れるべきだと思う。

 制度がスタートして1年8カ月たったが、必要な人に必要な支援が届いているとは言い難い。困っている人は、自分に役に立つ支援や情報にアクセスできない場合が多い。自治体には、相談窓口で待っているだけでなく、訪問支援を拡充して、対象者を掘り起こす努力を求めたい。

 支援を考える上では生活保護の現状も知っておきたい。

 生活保護を受けられるほど生活に困っている人のうち、実際に保護を受けている世帯の割合を示す「捕捉率」は日本では2割程度と推計される。欧州などの先進国と比べて極めて低い。

 背景には、生活保護を受けることへの抵抗感がある。社会の目を気にして、保護されるべき人が厳しい環境に置かれ続けていることは、みんながもっと考えていくべき問題だ。

 そもそも日本は、日々の暮らしに必要な住まいや医療、教育などにお金がかかりすぎる。日本の税負担は欧州などに比べて低い。日本も税金や社会保険料をもっと高くして、普段の暮らしに必要な支出を減らすような仕組みを検討していいのではないか。税は基本的に収入などに応じて支払うので、中・低所得者にとって助かる。

 ●高齢者への支援拡充を 奥田 知志さん NPO法人抱樸の理事長

 貧困や困窮は「自己責任」だという風潮がある中、生活困窮者自立支援法ができた意義は大きい。支援は行政の「責務」であると明確にしたからだ。

 制度は、貧困を「経済的な困窮」と「社会的な孤立」という両面から捉えている。

 実際、経済的困窮は社会参加の機会や人とのつながりにも影響を及ぼす。例えば、生活保護受給者の高校進学率は平均より低い。非正規雇用の男性の婚姻率も、正規雇用の男性より低い。社会的に孤立すると、困ったときにセーフティーネットにつないでくれる人がおらず困窮が深刻化する。

 厚生労働省は今、2018年度に予定する制度の見直しに向けて検討会を開いていて、私も委員になっている。まだ論点整理の段階だが、個人的には、高齢者への支援が足りないと感じている。

 制度は生活保護に至る前に自立を促すという狙いがあるため就労支援に偏りがちで、支援メニューが高齢者にはそぐわないケースが少なくない。居住支援も弱い。離職などで住まいをなくした人には家賃相当額を支給する仕組みがあるが、対象年齢は65歳未満。年齢や状況を問わず、総合的に住まいの確保を支援する策がいるはずだ。

 基本的に現金給付がないのも問題だ。困窮している人は衣食住はなんとか確保できていても、職探しに必要な交通費を捻出するのは簡単なことではない。自立に向けた「必要経費」を給付できる制度にしなければ、支援活動は制限される。

 その上で、生活保護受給者も利用できる制度にすればいい。今は「子どもの学習支援事業」しか認められていない。自治体のケースワーカーは保護費の給付業務で手いっぱいで、普段の困り事の相談まで、じっくり応じられない現実がある。制度を手直しすれば、より効果的な支援ができるのではないだろうか。

 =おわり


=2016/12/10付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]