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シカ食害 ジビエ料理に生かす 鹿児島県阿久根市の食肉処理施設 品質向上、地域の資源へ

捕獲されたシカは解体してすぐに食肉として加工される
捕獲されたシカは解体してすぐに食肉として加工される
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シカの通り道を推測して置かれた箱わな。中には餌のサツマイモがある
シカの通り道を推測して置かれた箱わな。中には餌のサツマイモがある
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 「もも肉とロースをいただきます」。鹿児島県阿久根市の食肉処理施設「いかくら阿久根」を訪れたのは鹿児島市の和食店の料理長。ここのシカ肉は質が良いと聞きつけ、初めてやって来た。「9月からのメニューに使いたいと思って」。計3キロで8100円。真空パックの冷凍肉を手に笑顔を見せた。

 農作物に被害を与えるシカの肉を食肉として活用する施設は開設から4年。野生の鳥獣肉を食材に使う「ジビエ」料理への関心の高まりもあり、今では料理人たちが直接買い付けに来ることも珍しくはなくなった。口コミで広がった一般客からの注文も多い。

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 農業が盛んな阿久根はミカン科最大のボンタンが特産。「市の木」でもある。最盛期には約550戸の栽培農家がいた。それが今や約30戸。後継者不足が主な原因だが、背景には、シカの食害もあった。

 「地元の特産品がなくなるという危機感がきっかけでした」。施設を設置、運営する一般社団法人の牧尾正恒会長(74)が振り返る。

 シカやイノシシは狩猟免許を取得した農家などの猟友会員が駆除する。焼却や埋設には相当な手間がかかる。そこで、廃棄しないで済むようにと食肉処理を思い立った。「どうせなら安心・安全、そして高品質を目指したい」と、国内のジビエ先進地、和歌山県などを視察。銃による猟を、わな猟に転換、食肉としての品質を落とさない現場での取り扱いを周知し、殺処分後1時間以内の搬入を呼び掛けた。

 施設の衛生設備は食肉加工メーカーと同水準。枝肉の消毒、包丁の滅菌器保管のほか、解体作業室の床を洗う水の殺菌効果引き上げにまでこだわった。市も単独事業で1頭につき2万円を助成、運営を支えた。

 地元猟友会によるシカの捕獲数は2012年の166頭から15年には916頭へ。イノシシも合わせると近年は1200頭前後で推移し、その9割を食肉処理している。全国的には逆に9割が廃棄されているのが現状という。

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 シカやイノシシは近年、温暖化の影響や狩猟家が減ったため増加。環境省によると、シカは13年度、全国で305万頭(北海道を除く)と推定され、25年前の10倍になっている。農林水産省によると農作物の被害額はピークの11年度83億円に達した。九州は宮崎、鹿児島、福岡3県が特に多い。

 農水省は08年に制定した鳥獣被害防止法に基づき対策に乗り出し、捕獲者に1頭につき8千円を補助するなどし、11年度比で頭数を半減させることを目指す。

 全国でのシカの捕獲数は14年度、10年前の3・4倍の59万頭に達したが、食肉として生かす資源化は進んでいない。農水省は食肉を安定的に流通させるため、施設の認証、肉の表示法など共通ルールの策定を検討している。

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 福岡県では先月、処理施設を持つ糸島市、宗像市、添田町、みやこ町が協議会を設立。商品規格の統一などで連携して流通促進を目指している。

 飲食店がジビエ料理を提供する福岡県主催のジビエフェアは5年目を迎える。「硬い肉というイメージが変わった、といった声をよく聞く」と県担当者は手応えを感じている。

 食肉利用の先進的な団体として注目される「いかくら阿久根」は毎年、和歌山市の専門業者の講習を受け、解体技術の向上に余念がない。地元の消費拡大にも取り組み、学校給食への提供や料理教室も開く。地元の県立鶴翔(かくしょう)高校はシカ肉を使った料理を開発するなど広がりも見せている。

 一方で大量の商品が求められる商社の注文は辞退しているという。「基本は地産地消」と牧尾会長。「シカ肉は低カロリー、高タンパクの健康美容食。ぜひ鹿児島に食べにきて」と、ジビエの本場鹿児島の実現を思い描いた。


=2017/09/06付 西日本新聞朝刊=

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