虚無僧の尺八は吹く禅なり 博多に修行道場 一朝軒

西光寺の住職で、一朝軒の22世看主、磯玄明さん
西光寺の住職で、一朝軒の22世看主、磯玄明さん
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 旅の剣士とすれ違いざま、尺八を吹く僧の一団がかぶった深編み笠(がさ)をばっと投げ捨て、襲いかかる!

 時代劇でそんな場面が繰り返し描かれてきた虚無僧(こむそう)。今はあくまでドラマの話だ。福岡市博多区御供所町にある虚無僧寺の「一朝軒(いっちょうけん)」は、長かった会社人生を退いた男性や日本の文化に魅せられた外国人などが、尺八を吹いて悟りへの道を歩む修行の場なのだ。

 そもそも虚無僧は、中国唐時代の普化(ふけ)禅師を祖とする禅宗の一派、普化宗から始まる。普化禅師は托鉢(たくはつ)の時に鈴を鳴らしたが、弟子たちがこれを尺八の音に代えた。尺八もまた、唐時代に中国で生まれた管楽器を起源とする。

 尺八を吹いて托鉢する僧が日本で虚無僧と呼ばれるようになったのは南北朝時代の智将、楠木正成(くすのきまさしげ)の孫の正勝が始まり。正勝は「虚無」と名乗り、編み笠、頭陀(ずだ)袋、わらじの姿で各地を巡って托鉢したという。

 時代は下り、江戸幕府は虚無僧になれるのは武士だけと定め、全国を通行できる自由を与える一方、隠密として諸藩の動きを探らせた。このころ全国の虚無僧寺は約120カ所を数え、九州でも6寺があり、福岡藩は一朝軒を手厚く保護した。

 ところが明治時代になると、神道と仏教の分離を推し進める「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」の流れの中で、幕府の隠密を務めた普化宗は禁止されてしまった。それでも博多の虚無僧は受け継がれ、西光寺の現住職、磯玄明(いそげんみょう)さん(53)の父が戦後の1957年、西光寺の中に明暗(みょうあん)流尺八の一朝軒道場を再興した。代々伝承してきた尺八技法の「一朝軒伝法竹(でんほっちく)」は福岡県の無形文化財に指定されて今に至っている。

 磯さんは「尺八は禅の修行。尺八を吹くことによって、自分の中に仏があると知るのです」と静かに語る。今、門人は30人ほど。月に3回、磯さんと1対1で1時間ほど指導を受けるが、初心者はまず般若心経を読むところから始める。

 楽譜は磯さんが手書きしたものを使い、1曲ずつ習得していく。60を超える曲目をすべて覚える免許皆伝には「早い人でも8年。あるいは10年かかりましょうか」と磯さん。小学校低学年から虚無僧の尺八を学び始め、若き日は尺八を手に欧州を行脚したこともあるという磯さんの指導は、実に柔和だ。「そこは少しゆっくり休みを入れてもいいかもしれませんね」「一緒に吹いてみましょう」。庭から鳥のさえずりが尺八の音に唱和する。

 この11月12日には、虚無僧の尺八奏法と歴史を学ぶ「虚無僧研究会」(本部・東京)の集まりがここ一朝軒で催され、約100人がこのところ九州で相次いだ災害の犠牲者のために尺八を献奏した。

 今では虚無僧の尺八を伝える寺は他に京都の明暗(みょうあん)寺ほどしかないという。そんな中、磯さんは今年9月にチェコのプラハで開かれた国際尺八フェスティバルに招かれ、古典曲の音色を響かせてきた。九州は博多に一朝軒あり。志ある方はぜひ門をたたいては。

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 一朝軒は福岡市博多区御供所町6の16、西光寺内。尺八指導の月謝1万円。問い合わせは電話=092(291)4886。ホームページも設けている。


=2017/12/02付 西日本新聞朝刊=

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