【とまり木どこに】短期入所編(2) 老健の活用、現場は手探り

短期入所先の水光苑でお年寄りやスタッフに囲まれ、笑顔を見せる石井信康さん=中央(水光苑提供)
短期入所先の水光苑でお年寄りやスタッフに囲まれ、笑顔を見せる石井信康さん=中央(水光苑提供)
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 医療的ケア(医ケア)が必要な重い障害者を福祉施設が短期入所で預かる場合、ネックとなるのは看護師の確保だ。もともと看護師が常駐する施設を活用できないか。福岡県が白羽の矢を立てたのが、高齢者向けにリハビリ訓練などを行う既存の介護老人保健施設(老健)。3年前から、医療型短期入所施設の指定を受けて、重症心身障害児・者(重症者)を受け入れるよう、協力を呼び掛けている。重症者の中でも、医ケアが必要な人の受け皿の広がりを期待した試みだが-。

 ●補助の利用ゼロ

 県が2012年度に行った実態調査によると、県内の在宅の重症者は1757人。うち約1200人(推計)が短期入所を望み、こうした施設がない都市部以外での拡充が狙いだった。

 ただし14~17年度に計11の老健が受け入れを始めた半面、利用契約した人は各年度2~6人。医ケアが必要な人はほとんどいないとみられる。県はたんの吸引器や低床ベッドなど医ケアにも対応できる資機材購入補助制度も設けたものの、申請はゼロだ。県障がい福祉課の担当者は「どこの老健が受け入れているか知られていないのも一因」とみるが、歯切れは悪い。

 ●けいれんが不安

 同県福津市の老健「水光苑」は14年度、重症者の受け入れに進んで手を挙げた。系列グループ内で障害者のデイサービス施設を運営しており、利用者から宿泊の要望も上がっていた。計100床のうちお年寄りの利用が約9割。重症者は個室の空きがある場合に預かる。看護師1人、介護士4~5人が県内の医療機関で研修を受けるなどして準備を進めた。

 介護主任の奥田智子さん(46)は「当初は(職員たちは)猛反対だった」と振り返る。重症者特有のけいれんを見たことがない。しぐさや顔つきで判断するコミュニケーションも心配だった。親からの注文も多いのでは…。そんな“敬遠材料”は入所を受け入れ、実際に接するにつれて薄れていった。「ずっと笑っていてくれて、救われたこともある」と奥田さん。

 ただ水光苑で対応する医ケアは、高齢者も含めて胃ろうのみ。これまで3人の利用契約を結んだが、いずれも医ケアが必要ではない。支援相談員の濱田有希子さん(29)は「親御さんからの問い合わせは(たん吸引が必要な)気管切開の人が多く、実際に受け入れに至らない」と打ち明ける。

 ●ケアはそれぞれ

 同市の石井千鶴子さん(56)は長男の信康さん(28)と2人暮らし。水光苑までは車で5分。15年から信康さんを1~2カ月に1度、1泊2日で預かってもらう。脳性まひの信康さんは自力では座れず、筋肉の萎縮や体の変形が進み、常に全介助が必要だ。体重は40キロ近く「最近は一人で抱えて車いすに乗せるのが大変」(千鶴子さん)。片道約30分かかる医療機関の短期入所も利用しているが希望者も多く、水光苑も預け先の一つに選んだ。

 専門外の施設に預けるのは「不安だらけ」だった。横たわっていても動くこ
とがあるため、個室にシーツで覆った畳を用意してもらった。一方、夜はベッドで眠るため落ちないよう柵で囲うよう要望したものの、高齢者施設では「身体拘束」となり四方を囲えない。利用して始めて分かる“壁”も少なくなかった。

 「徐々に手探りで対応してもらい、ありがたい」と千鶴子さん。最近は帰り際、お年寄りたちが名残惜しそうに手を振ってくれる。信康さんもあいきょうのある笑顔で応える。

 それでも-。重症者のケアの仕方や癖、容体は人それぞれ。お年寄りと違い、他の人に応用はきかない。千鶴子さんには「一人受け入れるだけでも(老健には)重労働」と映る。より難しい対応が必要な医ケアがある人まで受け入れる態勢づくりが、高齢者向けの施設で可能なのか。「とにかく安心して預けられる場所が増えてくれれば」。千鶴子さんはそう願う。

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 【ワードBOX】医療型短期入所

 障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つ。在宅で暮らす重症心身障害児・者などを、介護者が病気などの場合、一時的に医療機関(病院、診療所、介護老人保健施設)で受け入れ、たんの吸引や胃ろうなどによる栄養注入(経管栄養)などの医療的ケアのほか、入浴、食事などのサービスを提供する。障害者支援施設などが手掛ける「福祉型短期入所」施設より、報酬が高い。


=2017/12/14付 西日本新聞朝刊=

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