【とまり木どこに】短期入所編(4完) 身近で頼れる人に託せたら

福岡市と「ニコちゃんの会」が取り組んだ短期入所の共働事業。事務所の一室で子どもを見守った=2014年、同市(同会提供)
福岡市と「ニコちゃんの会」が取り組んだ短期入所の共働事業。事務所の一室で子どもを見守った=2014年、同市(同会提供)
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 実際、在宅で24時間付きっきりでわが子の医療的ケア(医ケア)に携わる親にとって「理想」の短期入所先は、どんな場所だろう。

 ●睡眠は2時間刻み

 思わず壁をバンとたたくことがある。大きなぬいぐるみを放り投げ、声を荒らげて…。そのたびに自己嫌悪に陥る。「悪い方向に考えないように頑張ってますけど。寝不足だと、やっぱりつらくて」。福岡県春日市に住む女性(38)は視線を落とした。

 長男(3)は出産時に心停止した影響で寝たきりだ。気管切開し、たんの吸引は多い時は10分おき。「すごく安定していれば30分おき」だが年に何回あるかどうか。眠っていても2時間に1度は女性が起きて吸引する。食事も鼻から管で注入している。

 会社員の夫(40)は昨年11月末まで単身赴任で不在だった。幼稚園児の長女(6)も甘え盛り。訪問看護師(訪看)やヘルパーを利用し、同じ市内の義母のほか70歳近い父母が車で約2時間かけて来てくれて、週1日ずつ泊まりで手助けしてくれるものの「いつまで頼れるのか」と不安は募る。

 ●預けるのに罪悪感

 入院や短期入所として一時預かりしてくれる病院を利用したことはある。ただ車で1時間半以上かかったり、寝かせきりだったり…。「寂しくないか、気づいてもらえているかと心配で」身も心も安まらない時もあった。約1年前、自身が急性虫垂炎で倒れ、約10日間入院した。偶然、夫の休暇が重なり家族でしのいだ。その際、長男が「後を追うように」体調を崩して入院。治療を終えた女性はそのまま、付き添いとなった。

 医ケアを考えれば「緊急時はやはり病院しか頼れない」と思う。「でもせめて車で30分以内の場所で」

 一方、体を休めたり家族の行事だったり、定期的に利用できる所は「歩いてバギーで連れていける距離」が理想と考える。寝不足で車の運転が不安だからだ。そして何より、訪看やヘルパーなど「日常的にわが子を見てくれている人」がそばにいてほしい。親と同じ目線で、万が一の際にはすぐ病院と連携して対応してくれて…。「そしたら罪悪感なくお願いできます」

 ●柔軟な対応が願い

 在宅生活に近い環境で、顔なじみの訪看やヘルパーに預かってもらう「お泊まりサービス」が実現できないか。重症児の母親などでつくる福岡市の認定NPO法人「ニコちゃんの会」(森山淳子代表)と同市は2014年度、医ケアが必要な在宅の重症児・者と家族を支える共働事業の一環として取り組んだ。家族らを対象としたアンケートで、そうした場所を望む声が大きかったからだ。

 訪看ステーションの事務所の一室を借り、同会所属のヘルパーを派遣。計5家族が0~2泊で利用し「もう1日預かってほしかった」など好評だった。ただ医療機関以外が短期入所を手掛けるには福祉施設と同様、事業所に入る報酬が低いことなどから現実的ではなく、事業化には至っていない。

 福祉施設や病院など既存の預かり先は十分ではなく、心置きなく託せる所は少ないとしたら-。「特定の施設に短期入所を委ねる方法はもう限界なのでは」。森山さん(52)は常々、そう考える。「例えば訪看やヘルパーが、さまざまな事業者の空いた部屋を間借りして一時預かりするサービスはできないか」。訪看やヘルパーの自宅以外の利用は原則、認められていない。こうした従来の制度にとらわれず、複数の事業所で「人」の行き来を可能とし、医ケアのある子に対応していく、そんな「柔軟な発想」を願う。

 森山さんは重症児の娘を3歳で亡くした経験がある。「日ごろから、子どもも楽しめて親も信頼できる預け場所が身近にいくつもあって…。そんな暮らしは理想でも何でもなく、誰にとっても当たり前のことでしょう」。何も医ケアがあるから、特別だから「とまり木」が必要なわけではない。一人の「母」の顔でそう言った。

 =おわり

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 【ワードBOX】訪問看護・居宅介護

 病気や障害のある人や家族の在宅生活を支えるため、居宅に出向いて提供するサービス。訪問看護は訪問看護ステーションから派遣された看護師が健康保険法に基づき、主治医の指示書に従い、たんの吸引などの医療的なケアや病状のチェック、助言などを行う。障害者総合支援法に基づく居宅介護は、事業所に所属するホームヘルパーが食事や入浴、排せつなどの身体介護をする。


=2017/12/28付 西日本新聞朝刊=

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