移住世代(5)子どもたちと、夢を追いかけ南国へ 毎日波に乗れる暮らし

宮崎県日南市のサーフポイントで、長男が波に乗る様子を撮影する加藤一美さん。バランスの取り方などを後でチェックするそうだ
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海に入る準備をする加藤優典さんを見守る一美さん。ときには愛犬も一緒に
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めきめきと力を付け、今年はプロ公認テストにも挑戦する加藤兄妹(写真は加藤優典さん、里菜さん提供)
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めきめきと力を付け、今年はプロ公認テストにも挑戦する加藤兄妹(写真は加藤優典さん、里菜さん提供)
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記者に「お母さんの肩を抱いて映ってみませんか」と促され、「こんなんで写るの初めて!」「まあ記念だから」と照れ笑いしながら写る加藤さん親子
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 移住の動機は人それぞれ。家族のために決断する人もいる。全国有数のサーフポイントを有する宮崎県に暮らす女性は、「プロサーファーになりたい」という子どもの夢を追って堺市から移り住んだ。子育てや収入の不安は、どう乗り越えたのか―。

長男の「プロになりたい!」がきっかけ

 その日の風を見ながらたどり着いた海岸で、加藤一美さん(44)がビデオカメラを構えた。画面の中でウエットスーツ姿の長男、優典(ゆうすけ)さん(19)がサーフボードで波に乗る。「少し目を離すと、違う人を撮っちゃうんですよ」。いいポイントにはたくさんのサーファーが集まるので、息子の姿を見失わないよう必死だ。 

 2012年7月、子ども3人を連れ宮崎市に移住した。父親の影響でサーフィンに熱中する優典さんが「プロになりたい」と言い出したのがきっかけだった。

 その頃は古里大阪の堺市で、体が不自由で外出がままならないお年寄りたちのために訪問美容師として働いていた。週末は息子のため、波のいい高知県の海まで車で往復7時間かけて通っていたが、そろそろ限界も感じていた。「私も技術者だから分かる。毎日やらないと上達しない」

 自身、小学1年で将来の夢に「びようし」と書いていた。子どもにも夢を追わせてあげたい。毎日いい波の海に入るには―。

 ネット検索をしたり、知り合いに尋ねたりするうち、日向灘に面した長い海岸線を持つ宮崎県が候補に挙がった。全国有数のサーフスポットが南北に散らばり、県庁所在地の宮崎市なら比較的仕事もあるだろう、と。

“移住体験”で「ここだ!」と市役所に駆け込む

 全国の自治体や企業などでつくる移住・交流推進機構が、東京圏の既婚男女500人(20、30代)に行った調査によると、移住に興味がある理由(複数回答)は「山・川・海などの自然にあふれた魅力的な環境」(50.2%)が最多。2、3位は「子どもに適した自然環境」(33.4%)、「子どもの教育・知力・学力向上」(22.2%)―と子育て関連の理由が並んだ。

 待機児童問題が深刻な都会から移住するタイミングは「入園・入学前」が一つの分岐点になる。学齢期に入ると勉強の遅れや転校の負担、「いじめられないか」といった心配も増えてくるからだ。

 一美さんの場合、宮崎に来たとき優典さんはすでに中学生だったが「普段から海でいろんな人と接してるんで」。心配はなかった。そして現地の短期賃貸マンションで事前に1週間〝移住体験〟したことが決め手になった。この時偶然、優典さんが熱を出した。車ですぐ行ける距離に救急病院や大型商業施設がそろっていた。

 「やっぱりここだ!と。勢いですけどね」。市役所に駆け込み、すぐに公営住宅入居の条件を確認した。家賃2万4千円の県営住宅に入れることになった。

不安は1年だけ、思い描いた生活ができている

 気がかりなのは仕事だった。当時はひとり親になったばかり。ひとまず地元サーフィン関係者のマンゴー農園にパートで通った。

 それでも収入面で不安があったのは「移住後1年ぐらい」。現地で立ち上げた訪問美容業は、介護施設でヘルパーとして働いたこともあってやがて軌道に乗った。その月収十数万円に児童扶養手当が加わる。「それで暮らしはなんとかなるんです。カーテンのサイズが窓に合っていない、とかはあるけど」。今は練習の本拠地・木崎浜から車で5分の貸家に住み替えた。

 次女の里菜さん(17)もサーフィンの世界でプロを目指す。大会参加費に遠征費、かかる費用は安くはないが、2人はアルバイトをしながら、ネットを通じて資金を募る「クラウドファンディング」を活用したり、地元企業とスポンサー契約を結んだりして活動費を工面している。16年、そろって東京五輪に向けた強化指定選手に選ばれた。

 優典さんは、自分の夢を移住という形で後押ししてくれた一美さんについて、こう語る。「本当にすごいの一言。勇気がいっただろうと思います。とにかく、いつも僕らに『楽しめ』って言うんですよ。ありがたいです。普段、面と向かっては言えませんけど」

 一美さんにこれからの目標を尋ねると「思い描いた生活ができてるんで、ないかなあ。子どもたちは毎日海に入って頑張っているし、私も仕事が安定してきたし、スーパーに並んでいる野菜は生き生きしているし。ブロッコリーがあんなきれいな緑色してるやなんて、こっちに来るまでは知りませんでしたわ」。

 水泳教室に通う末っ子の杏ちゃん(8)も、もうすぐ海にデビューする。
(文と写真=西日本新聞・河津由紀子)

連載「移住世代」

 30-40代の間で「移住」への関心が高まっています。仕事や子育ての最前線にいるこの世代が、人生の風景を変える理由は――。西日本新聞生活特報部とYahoo!ニュースの共同企画による連載「移住世代」。3月26日から30日まで、計5本公開します。

移住世代(5)移住の「トリガー(きっかけ)」、加藤さんの場合は…

2018/03/30 西日本新聞

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