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【命を守る 虐待根絶へ】育児の悩み 理解者いれば… 母親“孤育て”体験語る

 ■子どもの貧困を考える■ 
 2010年、大阪市の母親(当時23)がマンションに幼い2児を置き去りにして餓死させた。この事件を題材にした映画「子宮に沈める」を生活面で取り上げたところ、福岡県内でマッサージ店を営む女性(34)から感想が寄せられた。「事件はひとごとと思えない。私も娘に虐待に近いようなことをしてきました」。“孤育て”の苦しみを夫が理解してくれたことで、人生が大きく変わったという。女性を訪ねた。

 《映画は福岡市出身の緒方貴臣監督(32)が手掛け、昨年公開された。若いシングルマザーが社会から孤立していく姿が描かれている。生活面では昨年11月30日付と12月7日付に緒方監督のインタビューを掲載した》

 「お母さん、大っきらい!」。長女(3)の言葉に女性は安心すら覚えたという。「私が怖かったせいでいい子を演じさせていた。負の感情をはき出せるほど心を開いてくれたんだな」

 31歳で長女を出産した。店を長く休めず産後2カ月で復職したが、会社勤めをする夫(37)の家事や育児は「お手伝い」程度。実家の母親も自営業で頼りにくかった。寝不足が続く中での仕事、家事、育児…。周囲の言葉が自分を責めているように感じ始めた。

 子どもを預けて友人と食事に行こうとすると「主婦としてありえない」、保育所からは「できれば食事は和食に」、ママ友には「やっぱり母乳で育てないと」…。「母親の規格内」に納められようとしている気がした。「子育ては我慢なのか、ありのままの自分を受け入れてくれる人はこの世にいないのか」

 余裕がなくなり、長女への叱責(しっせき)がエスカレートした。怒鳴る、外に閉め出す、足を持って逆さにする…。そのせいか、長女は大人びていて手がかからなかった。しかし、一度泣きだすと感情のダムが決壊したようにパニックになり、女性のいらいらを増幅させた。その悪循環には、自分が幼少時に多忙な母に甘えられなかった寂しさも影響している気がしている。

 次女の妊娠を機に夫と何度も話し合った。「お互いさまで支え合おう、子どもは2人で育てよう」と。夫は家事や子育てに積極的になり、一緒に悩んでくれるようになった。夜泣きに戸惑ったり、いらいらしたりする夫が戦友に見えた。

 すると、苦になっていた周囲の言葉も、素直に受け止めたり、受け流せたりするようになっていった。長女に対して感情的に怒鳴ることが減り、長女もわがままを言うなど子どもらしさを取り戻した。夫婦で第3子も前向きに考えている。

 女性は、何に苦しんできたのか‐。緒方監督はインタビューの中で「母性への幻想」が事件の背景にあると語っていた。その言葉がふに落ちたという。以前は夫からも「お母さんやろ」と責められたことがある。

 「子どもは社会の宝」と言いつつ、その社会には「母親は自分を犠牲にして子育てするのが当然」との考えが根強く、サポートを減らし、SOSが出せない環境をつくっていく‐。

 女性は事件の母親に思いをはせる。「周囲が自分の失敗を望んでいるように感じていたんだと思う。若くして離婚し、後戻りも踏み出すこともできず『そら見たことか』と言われそうで…。理解者が一人でもいたら2児は命を落とさずに済んだかもしれない」

 女性は4月から社会福祉士資格の勉強を始める。高齢者やシングルマザーを支える事業をしたいという。マッサージを受けながら子育てや介護の悩みを吐露して泣いている客がいたことから思い立った。「事情を抱えていっぱいいっぱいの人はたくさんいる。思いを受け止め、癒やしになる場所をつくりたい」


=2014/03/22付 西日本新聞朝刊=

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