留学ビジネス ネパールからの報告(1)混とんの都「ジャパン」乱立

「JAPAN」の看板がひしめく「バグバザール」=昨年12月、ネパールの首都カトマンズ
「JAPAN」の看板がひしめく「バグバザール」=昨年12月、ネパールの首都カトマンズ
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赤い和傘に着物姿-。日本への留学ビジネスに沸くバグバザールではこんな看板があちこちにあった=昨年12月、ネパールの首都カトマンズ
赤い和傘に着物姿-。日本への留学ビジネスに沸くバグバザールではこんな看板があちこちにあった=昨年12月、ネパールの首都カトマンズ
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 南はインド、北はチベット自治区に挟まれた内陸国ネパールの首都カトマンズ。12月は乾期に当たり、砂ぼこりが巻き上がる。朝は10度を下回るが、日中は20度近くまで上がり、汗ばむ。

 服飾店や土産物店が集まる最大の繁華街タメル地区から歩いて20分。高校や大学が点在する学生街「バグバザール」は制服姿の学生や商人が行き交い、香辛料と油のにおいが漂う。物乞いの親子の姿もある。

 全長1キロ足らずの通りの両側は、れんが造りの5、6階建てビルが立ち並ぶ。壁面は語学学校のカラフルな看板で埋め尽くされ、「JAPAN」の文字がひしめいていた。語学学校はメインストリートに収まりきれず、路地裏や近くの通りにも密集地がある。

 欧米や韓国向けもあるが、圧倒的に多いのは日本。校名は「侍」「ようこそ」「FUJIYAMA」「CANON」など。看板には満開の桜を背景に和服姿でほほ笑む若い日本人女性や、教室の机に肘をついたアイドル風の女性のイメージ写真が添えられている。

 東京、大阪、名古屋、福岡、鹿児島…。日本語学校の所在都市を列挙し、「好きなところを選べる」と記された看板もある。「授業料無料」「留学費用ローン完備」「100%仕事保証」「成績が悪くてもノー・プロブレム」-。過熱する留学ビジネスの一端が垣間見える。

 実際に授業料は大半が無料。提携する日本の学校から、留学生を送れば1人当たり日本円で10万円前後の「紹介料」が入るからだ。

 日本語学校に通うダウンジャケット姿のサライさん(19)は「日本は世界から期待されている国なので、良い大学に行って良い会社に就職したい」と、にっこり笑った。

 一つのビルに複数の学校が同居し、日本語専門もあれば、英語や韓国語と一緒に日本語を教える学校もある。多くのビルは1階には飲食店や服飾店などが入り、脇の通用口から奥の階段を上って2階から上に学校がある。その一つに記者が入ってみた。

 日本目指す若者10倍に

 カトマンズの学生街「バグバザール」にある5階建て雑居ビル。薄暗い階段を4階まで上がると、たどたどしい日本語が聞こえてきた。漢字と英語で「新日本語学校」と書かれた立て看板がある。

 「お元気ですか」「はい、久しぶりです」「日本の料理は好きですか」「はい、天ぷらとすしです」…。8畳ほどの教室で6人の学生が2人一組になり、会話のレッスンを行っていた。

 ここは、留学で日本に5年間滞在していたネパール人のスレスさん(28)ら3人が2013年に設立。18~20歳の男女15人が通う。

 校長でもあるスレスさんが、「質問する時の語尾はアクセントを上げて」と指導すると、生徒たちは何度も「デスカ、デスカ」と発音を繰り返していた。

 教室には、五十音のひらがなとカタカナの一覧表があり、廊下には東京や千葉など提携先の日本語学校のポスターが張られる。福岡は「ようこそ福岡~世界に開かれた住みやすい国際都市」と紹介されていた。

 授業ではバスや電車の乗り方、ごみ出しのルールも教える。動画サイトを使って歌舞伎を見せることもある。校長室には侍がデザインされた掛け軸も。福岡や鹿児島などに50人の留学生を送り出しているスレスさんは「私は日本が好きだ。彼らの夢をかなえてあげたい」と話す。

 ネパールはアジア最貧国の一つ。アジア開発銀行の11年のデータによると、1日2ドル(約234円)未満で暮らす貧困層が国民の6割を占める。

 農業とヒマラヤ観光以外に目立った産業もなく、高校を卒業した若者は活路を求めインドや中東などに渡っていくケースが多い。

 留学先として日本を選ぶのは、欧米に比べ留学費が半分以下の100万円程度で済み、「原則週28時間」とはいえ働きながら学べることが大きい。

 欧米と日本では、留学に必要な成績にも差があるという。ネパールで2校を運営する「こころ日本語学校」のラムさん(33)は「米国は80点、オーストラリアは70点、日本は40点でも大丈夫」と明かす。日本は中流家庭でも手が届く国になっている。

 08年から日本政府が取り組む「留学生30万人計画」も追い風になり、5年ほど前からネパールの日本語学校は急増する。ネパール教育省によると、国内の語学学校は登録校560校、未登録は1500校に上り、日本語学校が最も多い。

 担当のゴウリさんの部屋は、棚や机、床にまで学校の開設申請書類が山積みだった。「僕のコレクション」と両手を挙げて笑った。

 現地の学校には、日本への留学ビザが取れると、提携する日本側の学校から1人当たり10万円の紹介料が入る。留学生を増やして利益を得る日本側とも利害が一致したこの「成功報酬方式」が、留学ビジネスの過熱を後押しする。

 日本への留学生は過去10年間で10倍超。過当競争の結果、紹介料の相場は「東京5万、九州7万」と値崩れを起こしているほどだ。

 記者は滞在中、ネパールにある40超の日本語学校を訪ねた。実態は玉石混交。もちろん、きちんと日本語を教える学校もあった。

 だが、ある学校では受付の女性が英語ではにかんだ。「ジャパニーズ ティーチャー ノーワン」(日本語の先生はいない)。学校のパンフレットには、日本に留学した若者たちが顔写真付きで紹介されていた。

 日本語を話せず、日本に行ったこともない人が社長や先生となっている学校も数多かった。ビザ申請の書類を偽造したとして、ここ数年、生徒や先生らが身柄拘束される事件も相次ぐ。

 だが、若者の日本への憧れが冷める気配はない。「JAPAN」の看板がひしめくバグバザールで記者が出会った若者の一人。ネパール西部の農家で生まれたマヘンドラさん(20)は、4月から鹿児島県に留学する予定という。

 「ここにいてもチャンスはない。日本に行って何かをつかんで帰りたい」と、目を輝かせた。

 連載「新 移民時代」第2部

「新 移民時代第1部」では、九州で暮らす外国人留学生の実像と、貴重な労働力となっている日本社会の現実を描いた。第2部では、特に急増するネパールから、日本を目指す若者の姿と留学ビジネスの過熱ぶりを報告する。

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 西日本新聞「新 移民時代」取材班
 imin@nishinippon-np.jp

=2017/01/01付 西日本新聞朝刊=

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