取材班からの報告 西日本新聞社会部・坂本信博

ネパールの首都カトマンズの学生街。日本への留学を誘う看板の「Japan」の赤い文字が際立つ=2016年12月撮影
ネパールの首都カトマンズの学生街。日本への留学を誘う看板の「Japan」の赤い文字が際立つ=2016年12月撮影
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 「移民ネグレクト」を越えて

 始まりは昨秋、同僚記者が聞き込んできた小さな情報でした。「福岡市の一角に、ネパール人の若者たちが身を寄せ合って暮らす『リトル・カトマンズ』があるらしい」。確かに、街角で中国語や韓国語とは異なるアジアの言葉を耳にしたり、旅行者風ではない褐色の肌の人々を見掛けたりすることが、ここ数年で急に増えました。法務省に取材すると、日本で暮らすネパール人の増加率は福岡県が全国でも突出して高く、過去10年で約20倍に激増していました。

 昨年、初めて100万人を突破した外国人労働者の2割は、実は留学生です。途上国から来た彼らの多くは、アルバイトなしでは学費や生活費が賄えません。入管難民法の就労制限(週28時間以内)を守れば生活が困窮し、破れば摘発対象となります。一方で、深夜の食品工場や運送会社の配送センター、コンビニエンスストアや居酒屋など、日本の若者が敬遠する人手不足の職場で、時に不法就労で働く留学生たちが貴重な労働力として日本社会を支えているのが現実です。外国人受け入れに反対の人も含め、多くの日本人がその恩恵を受けています。

 ネパールに飛んだ記者は、留学ビジネスの過熱ぶりを目の当たりにしました。「日本に行けば楽に稼げる」という業者の甘言に誘われて、途上国から多額の借金を抱えて来日。苦学に耐えきれず、「出稼ぎ留学生」「偽装難民」と化す若者もいます。彼らを食いものにする「名ばかり学校」も存在します。政府の「留学生30万人計画」を背景に乱立した日本語学校は玉石混交で、日本語教育を担う日本語教師の待遇は厳しい。「やりがい搾取だ」という嘆きも耳にしました。

 100万人のうち、さらに2割は外国人技能実習生です。担い手の減少が止まらない農漁業や製造業の現場で、欠かせない戦力となっています。例えば、かつおぶし。宮崎県沖の日向灘でインドネシア人実習生が釣ったカツオを、鹿児島県枕崎市の工場で中国人実習生が加工している。アジアの若者たちがいなければ、みそ汁の味が変わってしまうという話も聞きました。

 日本は、建前上は労働移民を認めない「移民鎖国」を続けてきました。安倍晋三首相は「いわゆる移民政策はとらない」と繰り返します。でも実際は、国際的な定義で1年以上滞在する「移民」を積極的に呼び寄せてきました。経済協力開発機構(OECD)の統計では、2014年の1年間で、日本は世界第5位の移民流入国です。国際貢献の名の下に、留学生や技能実習生として安価な労働力を受け入れ、社会保障や教育のコストを生まないよう数年で帰国させる。事実上の単純労働者を、「表玄関」ではなく「勝手口」から招き入れている。外国人を労働力としか見ず、生活者としての支援を放置する。移民がいるのにいないふりをする。いわば「移民ネグレクト」が日本の国策です。

 福岡市の街頭でアジアから来た若者たちにアンケートをしました。約4割が「親しい日本人はいない」と答えるなど、地域に溶け込めていない実態が浮き彫りになりました。ネパール人の21歳男性は、胸の内を語ってくれました。「福岡は外国人に優しいと聞いてきたが、学校とバイトの往復で忙しい。日本人の友人がほしい。僕と一緒にサッカーをしませんか」

 アジア各国では人材の争奪戦が過熱しています。日本にアジアの若者たちが集まる理由は「先進国だから」だけではありません。「働ける国」だからです。

 このままでは、そう遠くない将来、「外国人を受け入れるか」ではなく、「外国人が日本に来てくれるか」が焦点になるのではないか。1年弱の取材を終え、そう感じています。

=2017/06/27付 西日本新聞朝刊(特集面)=

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