葛藤の現場から~「知日派」はいま メディア(上)コラム炎上、驚きと戸惑い

中央日報の日本語サイトに掲載のコラム「悪魔とダンスを」。ネット世論の反発は日本の対韓感情の悪化を象徴する
中央日報の日本語サイトに掲載のコラム「悪魔とダンスを」。ネット世論の反発は日本の対韓感情の悪化を象徴する
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 5月8日、韓国主要紙の一つ、中央日報の日本語サイトに、ある大型コラムが載った。

 「悪魔とダンスを」。刺激的な見出しのコラムは、朴槿恵(パク・クネ)大統領に安倍晋三首相との首脳会談に応じるよう訴えていた。締めくくりには、こう書かれていた。

 「慰安婦への謝罪を拒否する安倍首相は道徳的に問題のある人だ。それでも国益のためには、悪魔ともダンスを踊らなければならない」

 コラムはインターネットで瞬時に拡散した。「民主主義国の首相を『悪魔』呼ばわりするのか」と批判の書き込みが続出し、日本の嫌韓サイトで「炎上」した。ソウルの日本大使館幹部も「日本人の嫌韓感情を刺激する」と眉をひそめた。

 コラムの筆者は国際問題論説委員の金永熙(キム・ヨンヒ)さん(78)。意図を聞こうと、ソウルの中央日報本社を訪ねた。金さんは驚いたような表情で話し始めた。

 「日本ではそんなことになっているんですか。全く知りませんでした」

    ◇    ◇   

 金さんは同社でワシントン特派員や編集局長を歴任した韓国でも有名な大ベテラン記者。日本の勤務歴はないが、独学で習得した流ちょうな日本語を話す。小沢一郎氏や鳩山由紀夫氏、作家の大江健三郎氏をインタビューしたこともある。

 「安倍首相を誹謗(ひぼう)する意図は全くない。日本のネット世論には『韓国人が書くことは反日だ』という先入観があるのではないか」

 東京で買い求めたという日本語の分厚い哲学書が並ぶ社内の自室で、金さんは言葉を継いだ。そして意外なことを口にした。

 「実はこのコラムを書くこと自体、勇気がいったんです」

 コラムは日本向けではなく、もとは中央日報の紙面。韓国の読者に向けたものだから、朴政権の硬直的な対日外交を批判し、「慰安婦問題への謝罪がなくても日本と関係を正常化させるべきだ」と主張すれば、「親日的だ」と反発を呼ぶ恐れがあった。

 「よくぞ大統領に苦言を呈してくれた」。「本家」の韓国語サイトには、コラムに共感の声が寄せられた。それを引き出したのはベテランの技だった。「悪魔」の表現を含めて、韓国の読者に受け入れられる論理を探った結果だった。

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 図らずも浮かび上がった日韓世論の深い溝。不幸な認識のギャップは、韓国メディアの日本語サイトを通じて、韓国側の想像以上のスピードで広がる。

 日本語サイトを運営する韓国の主要メディアは7社。2000年に開設された中央日報のサイトには、1日で100万件近いアクセスがある。

 日本人の関心は大きく変化した。サイトを運営する系列会社によると、ドラマ「冬のソナタ」で韓流ブームが起きた04年以降、読まれる記事の6割は芸能情報だった。ところが12年8月、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が島根県・竹島に上陸し、日韓関係が急速に悪化する。

 以来、一般記事のアクセスが9割を占めるようになった。対日批判の記事は「嫌韓派」に次々と転載される。記事が大手検索サイト「ヤフー」などのニュース欄に載ることもあり、目にする機会はさらに増えた。

 だれも望まない形で、日本人の対韓感情が悪化していく。日本に理解を示せば、本国で反発を受ける。韓国メディアの東京特派員の一人はこうつぶやいた。

 「心が折れそうになります」

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 反日感情が強いとされる韓国にも、日本をよく知る「知日派」は少なくない。彼らは何を考え、どう行動しているのだろうか。日韓国交正常化のための基本条約調印から50年となる22日を前に、その葛藤に迫る。

(ソウル植田祐一)

=2015/06/13付 西日本新聞朝刊=

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