葛藤の現場から~「知日派」はいま メディア(下)「どう伝える」確信なく

ソウルの売店に並ぶ韓国主要紙。東京特派員の記事が載らない日はない
ソウルの売店に並ぶ韓国主要紙。東京特派員の記事が載らない日はない
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 東京特派員時代、韓国のニュースを追う日本人から「ひと味違う」と一目置かれた韓国紙の記者がいる。

 朝鮮日報の国際部長、鮮于鉦(ソンウ・ジョン)さん(48)。2005年から5年半、東京特派員を務めた。東京の下町を歩き、トヨタの工場を見学して書いたコラムは「日本人以上に日本を知っている」と評判になった。

 そんな「知日派」の表情がさえない。日韓国交正常化50年を盛り上げようと、日本のアニメ事情を紹介する大型企画を3月から準備しているのに、いまだに掲載できないからだ。

 なぜか。8月には安倍晋三首相が戦後70年談話を出す。過去の植民地支配への反省や謝罪の文言は盛り込まれない可能性が指摘されている。

 「そうなれば韓国の国民感情が悪化するのは確実。それが分かっていて、友好ムードを盛り上げる記事なんて出せない。はしごを外されるようなものですよ」

 韓流ブームの全盛期を東京で過ごした「知日派」が、国民の厳しい対日感情に直面し、やむなく下した決断だった。

    ◇    ◇    

 互いの不信感が増幅する日韓関係。その最前線にいる韓国メディアの東京特派員はいま、何を伝えようとしているのだろう。

 「安倍首相は歴史修正主義者だと思う。批判すべきは批判するが、韓国人の誤解もあるんです」。ある韓国紙の東京特派員は、こう切り出した。

 安倍政権が推進する新たな安全保障法制。日本の世論は反発し、国会の論戦も過熱する。ただ、そんな状況を報じると、韓国では「日本はまた朝鮮半島を攻める気か」と受け止められてしまう。

 「日本への警戒感は韓国人のDNAに刷り込まれている。でも、日本が韓国を攻める可能性はゼロでしょう。日本人が懸念しているのは、米国の戦争に巻き込まれること。そこを正確に伝えなきゃいけないと思うんです」

 読者の反日感情をあおらず、冷静に、正確に。

 それでも、ふと思う。慰安婦問題などの歴史認識で、韓国の強い抗議なしに日本が動いたことが一度でもあったのか、と。感情を抑えた理性的な記事を書くことで日韓の溝が埋まるのか、確信があるわけではない。

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 「日本は、ある時には『師』のように、またある時には『悪党』のように描かれる。もちろん、その中には反感や競争心理のような、日本に対するとても複雑な韓国の感情が渦巻いている」

 鮮于さんが東京特派員時代に書いたコラムの一節は、日韓のはざまで揺れる「知日派」記者たちの心境を映し出す。

 昨年まで東京特派員だった韓国紙記者は、いきなりかかってきた電話で、心ない日本人から「韓国に帰れ」と罵倒されたことがある。

 しかし「そんな人はごく一握り」ということも知っている。東日本大震災の直後には宮城県に入り、涙をこらえる被災者の姿に感銘を受けた。「日本になじめずに帰国する人もいるけれど、特派員のほとんどは日韓関係をよくしたいと思っているんです」

 韓国メディアの東京特派員は15社、25人。両国民の感情の荒波にもまれながら、日本という「特別な隣国」と向き合う。

=2015/06/14付 西日本新聞朝刊=

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