葛藤の現場から~「知日派」はいま 有識者(上)出番を待つ「知恵袋」

日韓・韓日賢人会議の会合で司会するソウル大国際大学院の朴教授(奧)。手前は森喜朗元首相=6月1日、ソウル
日韓・韓日賢人会議の会合で司会するソウル大国際大学院の朴教授(奧)。手前は森喜朗元首相=6月1日、ソウル
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 冷え込んだ日韓関係を改善へと導く「知恵袋」が韓国南部・済州島に集結した。17日に始まった「韓日国交正常化50周年国際学術会議」。日韓の有識者ら100人以上が3日間、缶詰め状態になって議論を交わす。

 韓国の現代日本学会会長の李元徳(イ・ウォンドク)国民大教授(53)は、この会議を1年前から準備してきた。18日は政治、経済、文化など八つのテーマで議論が本格化する。「不正常な日韓関係を打破するきっかけとして位置づけている」と意気込む。

 ところが、3日間のプログラムのどこを見ても日韓対立の「核心」テーマが見当たらない。慰安婦問題、竹島問題、教科書問題。どうしたことか。

 「これらの問題を議論しても関係正常化には役立たない」。李教授はこう前置きすると、有識者の限界を率直に認めた。

 「専門家が議論すれば慰安婦問題などは望ましい解決の方向性の合意が得られるだろう。うまくいかないのは両国の国内事情と政治的思惑のため。政治決断の問題で、学者が合理的に議論しても解決しない」

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 安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の「意地の張り合い」が続く日韓関係。日本の「知韓派」と同じように、韓国の「知日派」もなかなかお呼びがかからない。

 「専門家の意見を聞こうとしない。限定された情報源の言葉だけを聞いているようだ」。ソウル大国際大学院の朴熙(パク・チョルヒ)教授(52)は4月、韓国紙のインタビューで朴大統領への不満を漏らした。

 朴教授は日本の研究機関に在籍していた1990年代、多くの日本の政治家と交友を持った。安倍氏もその一人で、官房長官時代に「首相になったらまず訪韓するべきだ。近隣外交を立て直せば米国も評価する」と進言したこともある。

 しかし、そんな「知恵袋」が韓国のトップに直言する機会はまだない。意見を聞きに来る政府関係者には「慰安婦問題への反省を求めるのは当然だが、安全保障や経済面の協力は切り離して進めるべきだ」と助言するが「大統領本人に伝わっているのかどうか」。

 日韓政財界の重鎮組織「日韓・韓日賢人会議」で世話役を務める朴教授は1日、訪韓した森喜朗元首相らの表敬訪問に同行した。朴大統領に会ったのはこのときが初めてだった。

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 それでも朴教授は悲観していない。今はかたくなな両国の政治のリーダーもいずれは交代する。「日韓が和解できないとは思わない。両国には民主主義と市場経済、言論の自由がある。いつかまともな議論ができる」

 そのときこそ「知日派」有識者の出番だ。「知識人が役に立つのは物事を相対化できるから。『私も間違っているところがある。あなたもあるでしょう』と。そんな考え方が広がるといい」。こじれた対立を解きほぐす指南役の準備はできている。

 今春、新たな学生を迎えたソウル大国際大学院の講義。日本に関心を寄せる学生たちに、朴教授は研究者の心構えを厳しく説いた。

 「どんな書籍や論文でも、読む際は筆者への尊敬の気持ちを持つこと。他人が書いていることを理解もせず、頭から批判してはならない」

 自分のしたことを反省しない。相手のすることを評価しない-。互いを批判するばかりの両国の一部の政治家たちは、これをどう聞くだろうか。

 ※「〓」は「吉」が左右に二つ

=2015/06/18付 西日本新聞朝刊=

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