葛藤の現場から~「知日派」はいま 記者ノート 相互不信克服へ一歩を

韓国の大統領官邸・青瓦台(中央奥)。安倍晋三首相とともに、朴槿恵大統領の決断に両国民の未来がかかる
韓国の大統領官邸・青瓦台(中央奥)。安倍晋三首相とともに、朴槿恵大統領の決断に両国民の未来がかかる
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 いてつく寒さの中、モスグリーンのコート姿が登壇するのが見えた。2013年2月25日、私は韓国の国会議事堂前広場にいた。ソウル着任後の初仕事は、朴槿恵(パク・クネ)大統領の就任式だった。

 それから2年4カ月が過ぎようとしている。「日韓関係が悪い時期しか知らないんですね」。取材後の雑談で、「知日派」の韓国人から同情された。両国の首脳会談は一度も開かれていない。

 日韓両国は22日、国交正常化のための基本条約調印から50年を迎える。この機会に「韓国の反日」を考察する連載をしようと考えたが、それでいいのか悩んだ。知れば知るほど釈然としないし、「心の距離」が開いてしまう。韓国の実情を伝える連載が、韓国への違和感を広げるなら皮肉というほかない。

 今回、韓国の「知日派」に焦点を当てたのは、彼らがそうした隔たりを埋めてくれる存在だと感じたからだ。日韓のはざまで葛藤する姿が、韓国への理解の幅を広げることに役立てば、と思った。

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 同時に今回の連載は、私たち日本人が韓国人と同様に、直情的に相手国への反発を感じやすくなっていることを浮き彫りにする狙いもあった。

 「悪魔とダンスを」のコラムを取り上げたのも、記事の背景や書き手の意図が分かれば、それほど腹を立てずに済むのではないかと思ったからだ。韓国メディアの厳しい対日批判は少なくないが、取材に応じた韓国紙記者は「厳しい新聞の論調とそうでもない一般国民の意識はどんどん広がっている」とも認めている。

 とはいえ、一部にせよ韓国には根強い反日感情があり、民族主義やナショナリズムと結び付いている。政治家が神経質になっていることも痛感した。

 与党セヌリ党国会議員の閔丙珠(ミン・ビョンジュ)氏には、九州大に留学経験があるという縁で、無理に取材に応じてもらった。両国民の「反日」と「嫌韓」に挟まれた現状では、「知日派」議員の多くは沈黙する。発言するのは政治的なリスクがあったと思う。

 対日決議の修正に役割を果たした議員を記事で匿名にしたのもそのためだ。「記事が翻訳されて韓国に出回れば、世論にたたかれかねない。実名を出したら、勇気ある『知日派』議員が絶滅しかねない」と判断した。

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 それでも一部の日本人は言うかもしれない。「韓国で知日派は少数派。分かり合えない韓国と無理に仲良くする必要はないのでは」と。

 そこに答えを持っているのが、著書「帝国の慰安婦」をめぐりバッシングを受けてきた世宗大の朴裕河(パク・ユハ)教授だった。

 外交や政治の専門家の多くは、日韓関係改善が必要な理由に「お互いの国益」を挙げる。確かに安全保障や経済分野で日韓には共通利益が多い。

 しかし、文学者の朴教授は、国家の枠組みで議論するときに「個人」が置き去りにされることを恐れる。「政府が戦争だと言いだしたとき、それに抵抗する人たちが必要。私たちは何が平和を生み出すのかに集中すべきだと思う」

 日韓の和解を願い、さまざまに葛藤する「知日派」たちが先を歩いている。相互不信の克服へと、私たちも一歩を踏み出したい。

 =おわり

(ソウル植田祐一が担当しました)

=2015/06/20付 西日本新聞朝刊=

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