ファイトケミカル<上>「野菜はすべてが宝物」 皮・種・芯でだし汁 甘くて元気に 熊本の保育園で実践

ベジブロスはざるいっぱいの野菜くずを煮出して作る。料理には前日に作って凍らせたものを使う
ベジブロスはざるいっぱいの野菜くずを煮出して作る。料理には前日に作って凍らせたものを使う
写真を見る
約30分煮出す
約30分煮出す
写真を見る
出来上がったベジブロス。玉ネギの皮が多いと濃い色になる
出来上がったベジブロス。玉ネギの皮が多いと濃い色になる
写真を見る
菜園で大根を収穫する園児たち
菜園で大根を収穫する園児たち
写真を見る

 「味見してみてください」。小皿の茶色いスープを口に含む。野菜の甘味が広がり、想像以上のこくも感じた。「玉ネギが多いと色が濃くなりますね」

 熊本県山鹿市。田園地帯にある米田保育園(園児数43人)で、給食の準備に忙しい栄養士、下田希さん(45)がすすめてくれたのは熱々の「ベジブロス」。玉ネギの皮、カボチャの種、レタスとリンゴの芯などを約30分煮出した野菜のだし汁だ。汁物のベースにするほか、ご飯もこれで炊く。

 この日の給食のメインはカレーライス。ベジブロスは前日に凍らせておいたものを投入。サツマイモの皮の紫色を帯びている。丁寧に洗ったジャガイモとニンジンは皮付きのまま入れた。

 「きょうのおかず甘~い」「いっぱい(野菜くずを)入れたもんね」「じゃろー」。園児とのそんな会話がうれしい下田さんは、2014年、小学校の給食担当から園に異動したときに受けた研修を胸に刻む。「すべてにおいて目からうろこ。やる気のスイッチが入りました」

 衝撃を覚えたのが、植物だけが持つ成分「「ファイトケミカル(phytochemical)」だった。

   ◇    ◇

 3年前の研修で講師として園を訪れたのは長崎県佐世保市の有機農家、吉田俊道さん(58)。生ごみを堆肥化して育てる、病害虫を寄せ付けない「元気野菜」と、皮や根っこも生かす食べ方を提唱し、普及のため全国で講演を続けている。

 ファイトケミカルは元気野菜の鍵となる成分。有害な紫外線や病害虫への抵抗力、抗酸化力があり、皮や根、芯に豊富に含まれる。体に取り込めば免疫力が高まり、健康増進に寄与する。トマトのリコピンなどのポリフェノールもその一つだ。

 山鹿市は吉田さんの考えに賛同し、09年から市内の公私立の保育園で生ごみリサイクル運動を始めた。

 米田保育園は当初から市のモデル園に指定され、皮付き野菜の活用と、栄養が流出しにくい蒸し調理を実践。野菜の栽培も吉田方式の土づくりに改めた。現在、収穫期には給食の野菜のほぼ半分を自前で賄う。

 「園児が土づくりから携わり、収穫した野菜を無駄にはできない」。下田さんは毎日出る野菜の皮も生かそうとベジブロスも始めた。

 園では15、16年度、インフルエンザで欠席した子どもはいない。熱を出しても治りが早くなった、という保護者の声も届く。運動開始当時の園長、稲葉敦子さん(61)は、始めて数カ月後の変化を覚えている。「土づくりの見学者たちが、園児たちが落ち着きましたね、と驚いていました」

   ◇    ◇

 園には年間を通した栽培計画がある。土づくりは5月、10月、2月の年3回。保護者や市場にも呼び掛けて生ごみを集め、畑に混ぜ込む。数日もすれば土の上にうっすらと白く菌が広がる。子どもたちは「菌ちゃんが生ごみを食べたんだね」と、土が生き物であることを実感しながら掘り返す。約1カ月後、微生物によって完熟した土ができあがる。「園児たちは命の循環を学び、感謝する心と強い体を育んでいます」と木村加代子園長は説明する。

 給食は園児にとって最も楽しい時間だ。みそ汁の中にネギの根っこを見つけた子は「やったー、元気になれるね」と声を上げる。

 そんな様子を見て下田さんは思う。「野菜のすべてが宝物。捨てられない」

 出来上がった昼食のカレーをいただいた。野菜の甘味がカレーの味に負けていない。こんなカレーを食べられる子どもたちは、何て幸せなんだろう。


=2017/12/20付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]