ファイトケミカル<下>皮付き給食、調理員の挑戦 細菌数比較で管理基準クリア 大阪・豊中の給食センター

皮付きのままおかずに入ったニンジン
皮付きのままおかずに入ったニンジン
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走井学校給食センターの調理室。千人分を調理できる鍋で食材を炒める
走井学校給食センターの調理室。千人分を調理できる鍋で食材を炒める
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 1日1万3千食をまかなう調理室に巨大な鍋がずらりと並ぶ。「炒めているのが皮付きのニンジンです」。西日本一の規模という大阪府豊中市立走井(はしりい)学校給食センター。江川勉所長が調理室を見下ろす見学通路の窓から説明してくれた。

 皮付きで調理するのは今のところニンジンと大根。抗酸化力があり、免疫力が高まるとされる野菜の成分「ファイトケミカル」が皮には豊富に含まれるからだ。

 子どもたちの健康のために、という職員の挑戦は約2年前に始まった。そこには越えなければならない壁があった。学校給食には、食中毒を防止するため文部科学省が定めた衛生管理基準がある。その手引書には、皮をむくことが明記されているのだ。

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 きっかけは2015年12月、生ごみの堆肥化などに取り組むNPO法人「花と緑のネットワークとよなか」(高島邦子代表)が開いた講演会だった。長崎県佐世保市の有機農家、吉田俊道さん(58)が「元気野菜でかわるこころとからだ」と題して話した。

 給食のメニューを統括する管理栄養士、冨士原(ふじはら)洋子さん(56)たちは、春に稼働したセンターの、食育の取り組みを報告するため来場していた。

 「野菜の成長点には生きる力が集まっている。命があるんです。そんな皮や根っこを食べましょう」。九大大学院で植物生理学を研究、長崎県の農業改良普及員を経て就農して約20年、実践を重ねる吉田さんの言葉に冨士原さんは心を動かされた。「いかに早く、きれいにしか頭になかった。皮を使えば栄養価は上がる。『子どもたちの成長のために』という初心を思い出しました」

 会場に来ていた江川所長も、その思いに共感し、実現に向けて何が必要か、冨士原さんは調理員たちとその場で話し合った。

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 鍵となるのは管理基準。衛生面の問題だから、菌の数に差がなければ良いはず。実際に皮付きと、皮をむいたそれぞれの材料で調理して細菌数を比べた。おかずはハムと大根の甘酢あえ。大根とハムはそれぞれ規定に従って85度以上で加熱した。結果はほぼ同じ。問題ないレベルだった。

 江川所長は市教委に相談し「安全が立証されているなら断る理由がない」と一任を取り付けた。

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 吉田さんに賛同する自治体、学校、市民団体は全国に広がり、ファイトケミカルの有用性をアピールする団体もある。東京都日野市で都市農地の保全活動を続ける「市民による都市農業研究会」(佐藤美千代・代表)は、野菜の皮と実の抗酸化力を比較したデータを公表。大根、サツマイモなど皮の方がおおむね2・6~4・4倍高かった。吉田さんは「抗酸化成分のファイトケミカルがそれだけ皮に集中している」と説明する。

 豊中の給食センターは現在、登録農家の有機野菜をできるだけ使うようにしている。野菜は規定に沿って三つのシンクで流水洗いをする。泥付きの根菜類は表面をチェックし、汚れやひげを除く。ゴボウは菌が多いことが分かっているため皮をむく。

 新たに今年4月から、みそ汁のだしには、いりこの粉末を使っている。現代人に不足しがちなミネラルをしっかり摂取できるという吉田さんの提唱する方法だ。だし殻が多いことなどから残飯が多くなる課題も出てきたが、粉末の量を半分にして対応する計画だ。

 巨大な行政組織による新たな挑戦。現場の人たちの知恵と行動、それを受け止める組織の柔軟さによって実現したことだろう。吉田さんはセンターを「日本の望み」と表現する。

 栄養士、調理員は交代で各校を回り、取り組みの狙いを説明して児童と一緒に給食を食べる。冨士原さんは言う。「しっかり、食のことを考えて。一生、得やからね」


=2017/12/27付 西日本新聞朝刊=

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