「黒塗りメイク」と偏見、差別 「笑い」と異なる「嗤い」 内包する暴力性

 昨年大みそかに放送された「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」年末特番(日本テレビ系)で、ダウンタウンの浜田雅功が黒塗りメイクをして出演したことが問題になっている。番組では、黒人俳優のエディ・マーフィのまねという設定がなされていたが、黒人差別ではないかと問題視され、ニューヨーク・タイムズやBBC放送が報道する事態に発展した。

 番組にいち早く疑問を投げかけたのは、在日13年の黒人作家バイエ・マクニールだった。彼がツイッター上で、顔の黒塗り(ブラックフェイス)の差別性を訴えたことから、一気に問題が認識された。

 マクニールは、渡辺一樹「『笑ってはいけない』浜田の黒塗りメイクが物議 黒人作家が語った不安」(ハフィントンポスト、1月3日)の中でインタビューに応じ、日本でブラックフェイスを目にするたびに「見下されたような、馬鹿にされたような、そして表面だけを見られて、人間性を否定されているような気分になります」と答えている。

 マクニールが強調するのは、世界でブラックフェイスが「人種差別」と見なされてきた歴史的背景についてである。19世紀のアメリカで流行した大衆演劇「ミンストレル・ショー」では、黒塗りをした白人が、黒人の「無知」や「愚行」を笑いものにし、娯楽として消費されていた。これが典型例として問題視され、20世紀の公民権運動後にはエンターテイメント界のタブーになっていった。マクニールは、日本社会に対して「世界がブラックフェイスについてどんな議論をしているか、きちんと見てこなかったように思えます」と問いかけている。

 彼が寄稿した「黒塗りメイクは世界では人種差別行為だ」(東洋経済オンライン、1月17日)では、いじめ被害の問題に言及し、警告を発している。日本には多くのアフリカ系外国人や多人種の血を引く日本人が暮らしている。その子どもたちは、ブラックフェイスの番組演出によって、笑いやからかいの対象とされる可能性がある。日本の子どもたちの中で、エディ・マーフィの認知度は高くないため、「黒人の外見的特徴を面白おかしく誇張した下手なモノマネ」としか認識されない。結果的に、偏見と差別が助長され、いじめが蔓延(まんえん)することにつながる。

 マクニールの指摘を、日本社会は重く受け止めるべきである。「笑い」と「嗤(わら)い」は異なる。後者には「あざけり」や「蔑(さげす)み」が含まれており、暴力性が内在する。差別的な「嗤い」には注意深くならなければならない。「笑い」と「嗤い」を混同してはならない。

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 しかし、日本のテレビ番組における「嗤い」の多用には、根深いものがある。同じ番組では、タレントのベッキーがドッキリを仕掛けられ、タイ式キックボクサーから強い蹴りを受けた。2016年に彼女をめぐって起きた「不倫騒動」への「みそぎ」というのが、蹴りの理由とされた。

 この演出をめぐっても、女性に対する一方的な暴力として問題視された。ベッキー自身が1月6日深夜に放送されたラジオ番組で「タレントとして本当にありがたかったなと思います」と発言すると、番組を擁護する意見がネット上にあふれ、議論が過熱した。

 ジャーナリストの江川紹子は、自らのツイッター(1月7日)でベッキーの「ありがたかった」発言に言及し、「こう言わざるをえない力関係を利用しての暴力に、よけい番組の問題性を感じます」と述べている。江川は「人をだまし討ちにし、嫌がる人を逃げられない状況で追い詰め、私的制裁として暴力をふるう番組が、公共の電波に乗って放送されること」の是非を問い、その社会的影響を問題視する。そして、ベッキーの発言が「リンチやいじめの加害者に、余計な言い訳を与えたのではと気がかりです」と述べ、不当な暴力に正当性を与えかねないと懸念を表明している。

 不倫騒動をめぐる私的制裁の演出は、暴力的な「嗤い」にほかならない。江川の指摘は、正鵠(せいこく)を射ている。

 この番組だけではない。昨年9月28日にフジテレビ系で放送された「とんねるずのみなさんのおかげでした」30周年特番では、とんねるず・石橋貴明が演じる「保毛尾田保毛男」というキャラクターが登場し、問題になった。ここでも同性愛者への揶揄(やゆ)が、「嗤い」へとつなげられ、偏見を助長しかねない演出がなされていた。

 嗤う側の人間は、その「嗤いの暴力性」に気づきにくい。差別の助長を「表現の自由」と取り違えてはならない。

 メディアはこれを契機として、お笑い番組を含めた表現のあり方を自己検証すべきである。権力を忖度(そんたく)し、萎縮する一方で、弱い立場の人間への暴力的表現を是認してどうするのか。

(中島岳志 なかじま・たけし=東京工業大教授)


=2018/01/27付 西日本新聞朝刊=

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