<54>黒崎発祥 渋谷の真っすぐな味 唐そば(東京都渋谷区)

「ラーメン屋っていい仕事だなと思います」と長村泰作さん。2代目として始めたつけ麺も人気メニューとなっている
「ラーメン屋っていい仕事だなと思います」と長村泰作さん。2代目として始めたつけ麺も人気メニューとなっている
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東京都渋谷区渋谷2の22の6。ラーメン700円、つけ麺800円。午前11時~午後11時。年中無休。03(3486)0147。
東京都渋谷区渋谷2の22の6。ラーメン700円、つけ麺800円。午前11時~午後11時。年中無休。03(3486)0147。
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 多くの若者でごった返す東京・渋谷。その駅近くに「唐そば」が店を構えて20年近くがたった。今となっては渋谷の味として親しまれている同店。そのルーツをひもとくと、北九州で生まれ、地元で絶大な人気を誇った店だった。

 オーナーの長村泰作さん(54)によると、創業は1959年。父親の到さん(故人)が北九州市八幡西区黒崎で始めた。製あん業で稼いだ資金をもとに久留米ラーメンの職人を雇い入れて開業した。しかし売れ行きが悪かったため、独学で一からレシピを作り直し、厨房(ちゅうぼう)に立つようになった。久留米とは一線を画し、豚骨と鶏がらに和風だしを混ぜたスープは瞬く間に評判となった。長村さんは「物心ついた時から行列ができていました」と振り返る。

 長村さんはラーメンとは無縁の人生を歩んだ。12歳で親元を離れて鹿児島のラ・サール中学、高校に進学。「おやじからは『実家がラーメン屋と言うな』と言われていました。継がせたくもなかったでしょう」。早稲田大を卒業後、大手電機メーカーに勤務。順風満帆とも思える人生だが長村さんの思いは違った。「ゆくゆくは自分で事業をしたかった」。

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 脱サラし、家業を継ぐことを決めたのは93年。心臓の持病もあった到さんから店を閉めると聞いたからだ。「命を削って働く父を子どもの頃から尊敬していた」。長村さんに迷いはなかったが、到さんは複雑だったようだ。「育て方を間違った」とこぼしつつ、客に「後継者ができたね」と言われるとうれしそうだったという。

 父の背中に学び、3年後には店を任された。1日700杯を売るなど店は大繁盛したが、黒崎の街のにぎわいは目に見えてなくなり、長村さんの同級生の多くは街を出た。
「ずっとおったらいかん」(到さん)の言葉もあり、移転を考えるようになった。博多、小倉と模索する中で、学生、会社員時代を過ごして「1番土地勘があった」東京への移転を決意した。

 99年9月に本店を渋谷に移した。ラーメンブームもありすぐに軌道に乗った。黒崎の店は閉める予定だったが、到さんは翌年2月まで厨房に立った。長村さんは「おやじは失敗しても帰るところを残してくれたんでしょう」と感謝する。

 受け継いだ一杯を味わった。豚骨だしのうま味を残しつつ、意外にあっさり。確かに久留米ラーメンとは違った。「同じだと『味が落ちた』、進化させると『変えるな』となる。2代目は右を向いても左を向いてもだめ。真っすぐ行くしかないですね」。

 常に新しいものが集まる渋谷の街。しかし、決して埋もれることのない歴史、そして味がある。 (小川祥平)


=2017/02/16付 西日本新聞朝刊=

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