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<55>地域で継ぐ「ばあちゃん」の味 天広軒(福岡県春日市)

「1度食べて首をかしげても、3度食べてほしい。とりこになります」と新開博幸さん
「1度食べて首をかしげても、3度食べてほしい。とりこになります」と新開博幸さん
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福岡県春日市春日原北町3の58の1。ラーメン480円。ギョーザ350円。替え玉150円。午前11時半~午後9時。定休日は火曜日。092(581)2022。
福岡県春日市春日原北町3の58の1。ラーメン480円。ギョーザ350円。替え玉150円。午前11時半~午後9時。定休日は火曜日。092(581)2022。
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 泡立つほど濃厚なもの、にんにく、マー油を混ぜたもの、背脂系に魚介系…。一口に豚骨ラーメンと言ってもさまざまなタイプがある。福岡県春日市の「天広軒(てんこうけん)」は言ってみれば澄まし仕立ての滋味系清湯(チンタン)スープ。インパクトに欠けるかもしれないが、長年地域に愛され、地域で味が受け継がれてきた。

 西鉄春日原駅前の雑居ビルに店を構える。地元客でにぎわう店内に入ると、新開博幸さん(44)と母親の勝子さん(65)が忙しく動き回っていた。さっそく注文したラーメンの透明感を残したスープは優しい舌触り。派手さはないが、豚骨のうま味が詰まっている。細すぎず、太すぎず。硬すぎず、やわらかすぎず。どちらかに偏ることのない「普通」の麺も好みだった。

 新開さんは3代目。ただ親や親戚から店を継いだわけではない。「ずっと『山根のばあちゃん』と呼んでいたので、下の名前は知りません」という初代が創業したのは約60年前。現店舗の近くで始め、当時商店街だった今の場所に移った。新開さんは小学3年の頃「ばあちゃんラーメン」に出合う。「食べたことない味。帰り道で父に『おいしかった』と言ったのを今も覚えています」

 地域随一の人気店だったが、のれんを下ろした時期もある。約30年前、商店街の取り壊しを機に初代が店をたたんだ。復活させたのは常連客だった岩渕満雄さん(故人)。「高校時代も部活帰りに寄ってました」。新開さんは変わらずに通った。

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 新開さんが“作り手”になるのはサラリーマンをしていた21歳の頃。父親の政博さん(69)が飲み友達だった岩渕さんから「後継者を探している」と相談を受け、新開さんに持ちかけた。

 「好きな味だったから。あと若さゆえですかね」。1995年、岩渕さんの下で修業を始めた。ところが数カ月後、岩渕さんが体調を崩し、店に立てなくなる。「いずれ継ぐつもり」の若者が突然人気店の3代目となった。

 最初は「味が違う」「こくがない」と言われた。客のスープを飲ませてもらったこともあった。心配した初代も教えに来てくれた。習得の早さも若さゆえだろう。試行錯誤を重ね「ばあちゃん」の味に近づけるようになった。「薄くならないように豚骨を炊く火加減は今でも難しい。でも地元で引き継いだ味だから。今後も守っていきたい」

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 大牟田市出身の初代は「うちは久留米の味」と話し、麺も現地から取り寄せていた。豚骨発祥の地である久留米ラーメンは、今では濃厚な白濁スープが当たり前だが、当初は澄んでいた。「最初はこんな味だったのかな」。ノスタルジックな気分にひたっていると、いつの間にかスープを飲み干していた。 (小川祥平)


=2017/03/16付 西日本新聞朝刊=

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